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「ある日の少年」
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「ある日の少年」-1

『みて、あの雲、アラジンの魔法使いみたいな形してる』
大きな雲を指さしてナナちゃんが言った。ナナちゃんはいつもこうだ。ディズニーやグリム童話が好きで、いつも夢みたいなことばかり言ってる。この雲だって僕にはフツウの、ただの雲にしか見えない。半ば呆れつつ「本当だね」と一応笑顔で応えた。ナナちゃんが嬉しそうに僕に微笑む。
ナナちゃんは可愛い。僕はナナちゃんが好きだ。でも、僕はディズニーも童話も本当は大嫌いだ。ナナちゃんの夢のような話も嫌いだし、今日みたいなお天気も嫌い。ついでに言ってしまうと、家族も嫌いだ。
こんなこと言うとナナちゃんに嫌われてしまうかもしれないから、口には出さない。僕はナナちゃんが好きだから。正確に言えば、ナナちゃんの顔が好きだから。
今日はナナちゃんの家に呼ばれた。家に入ると、早速ナナちゃんが笑顔で僕を迎えてくれた。
「今日は何して遊ぶ?」
『えっとね、私が昨日借りて来たビデオ、一緒観ようよ』
僕は凄く嫌な予感がした。ナナちゃんが借りて来たビデオ?ってことはもしかするとディズニーなんじゃないか?
「いいけど、なんのビデオなの?」
『ディズニーのビデオなの』
ナナちゃんは満面の笑みで応えた。予感的中。
待ってくれ、ディズニーのビデオなんか見せられたら僕の目が腐るぞ?
そう思いながらも、僕はナナちゃんのあとに付いていき、あの素敵なディズニービデオを観る羽目に…。目を閉じる。
(さっきも言ったように目が腐ってしまうから!!)
一時間経過…。
ナナちゃんはビデオに夢中。僕は耳をふさぎたくなるのを必死に我慢。
苦痛の二時間。
やっとビデオもエンディングの曲。ナナちゃんはご機嫌。僕の意識は朦朧。こいつは僕を殺す気か!?と本気で考える。ナナちゃんが笑顔を僕にくれる。…ヤバイ可愛い。全てどうでも良くなる。でも、僕が壊れるのも時間の問題。
ナナちゃんとさよならして僕は家に帰る。生きて帰ってこれた…。
二階の真っ暗な自分の部屋に入ってやっと、落ち着く。下では父さんと母さんの言い争ってる声がする。たまに帰ってくるとすぐこれだ。こんなんなら、父さんも母さんも出張から帰ってくることないのに。もう沢山だ。もう寝よう。


学校帰り、明らかに機嫌の悪い僕を、ナナちゃんが不思議そうに見つめている。
『マサキくん、どうしたの?』
「別に、どうもしないけど」
あまりにそっけない僕の返答に、ナナちゃんは悲しそう。
「…ごめんね、ちょっと気分が悪いだけだよ」
僕は無理に笑顔をつくった。するとナナちゃんは急に僕の手をとり走り出した。いつもの帰り道じゃない。どこへ行くつもりなんだろう。
少し走ると、すぐにその場所に着いた。ナナちゃんはそれを見上げ、目を輝かせる。僕は言葉を失う。とても綺麗な夕焼け。こんなに綺麗な夕焼け、初めて見た…。
こんな僕でも幸せにやっていけるような気がした。そんなこと、思ってはいけないのに。そんなこと思ってしまったら、幸せにはなれないんだと解ったとき、傷つくだけなのに。なのに、思ってしまう。自分は幸せになれるんだ、と信じたくなってしまう。
僕の目から涙が溢れてくる。ナナちゃんが優しく僕に微笑み、また前に向き直る。とても気持ちよさそうに風に吹かれている。
『ねぇ、明日もまたここにこよっか』
そう言ったのか、それとも
『明日は良い日になるかな』
と言ったのか、よくは聞こえなかったが僕は応えた。
「うん、きっと」

 -END-


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