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富子淫情
【歴史物 官能小説】

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富子淫情-2

――――それから数日後、

富子は春王を乳母に預けると、
僅かな供回りを連れて嵐山に向けて出発した。

言わずもがなだが、
夫・義政には一言も言わずの外出となる。


僅かな供回りに輿を囲まれての旅となるが、供回りの出で立ちも地味なものに押さえている。


富子自身も
御所で日頃身につけている衣袴ではなく、お忍びの外出に適していて、身軽でさっぱりした小袖という出で立ちだった。

藍色の布地に、川の流れを表す水色の曲線、そして桃色の蓮の花をバランスよく編んだものである。

とても“将軍御台所の一行"とは思えぬ、目立たない一行であった。





―――朝方から輿に揺られること半日。
何事もなく富子一行は嵐山に到着した。





嵐山の山々は夏の緑一色となり、富子の目にはその青々しさがくっきりと映った。

桂川から流れてくる水の冷たさが、そのまま涼風となって富子の身体を包み込んでくれる。



「ああ、気持ちいいこと・・・・ここまで遠出してきた甲斐があった・・・・」


思わずひとりごちた富子は輿から降りたその足で、
ゆっくりとした歩調のまま桂川の河原を歩いていく。

供回りも輿の位置で控えており、富子の散策を妨げるものではない。


都の中心部であれば、夏の日射しが照りつけてくるところだが、
嵐山にいると、同じ京都なのかと思えるほどに気候の違いを実感させられる。

色々と物思いに耽りながら河原を散策すること、
どれほどの時間が経っただろうか。





――――ゴロゴロゴロ・・・・・



「雷・・・?」


西の山の向こうから聞こえてくる遠雷に、富子は思わず空を見上げた。

少し前まで真っ青に晴れ渡っていた空が、
今ではやや灰色がかった薄い雲に覆われている。




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