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氷炎の舞踏曲
【ファンタジー 官能小説】

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白銀の獣、についての記述。-5

「それじゃ、ついといで。」
 アイリーンが促し、裾の長いドレスを着ているソフィアに手を貸しながら、雑木林を歩き出す。
 サーフィも続こうとしたが、突然、ヘルマンに引き止められた。
「そうそう、これを渡すのを、忘れていました。」
 紙の薬包が、手に押し付けられる。
「処女膜の再生薬ですよ。水に溶いて飲めば、一晩で効きます。」
「なっ!?」
「使うか使わないかは、君の自由です。これはまぁ、いわば僕の自己満足ですから。」
 そしてヘルマンは、顔をしかめてサーフィから視線をそらした。
「君にいずれ、愛する男性が出来た時、処女でない事で悩まれたりしたら、寝覚めが悪いものですからね。」
「……ヘルマン……さま……?」
「我ながら、最低な餞別だと思いますが、僕にできる事は、せいぜいこれくらいです。」
「餞別!?あの……ヘルマンさまは……」

 不意に、自分がとんでもない勘違いをしていた事に、気がついた。
「ここでお別れです。もう二度と、会うこともないでしょう。」
 やっぱり、嫌な予感はあたった。
 今までの会話から、すぐ気づくべきだったのに……サーフィはヘルマンが、一緒にくるものだと、自分の中で決め付けていたのだ。
「や……嫌……です……」
 思わず、引きつった声が口から漏れた。
「アイリーンはなかなか面倒見の良い女性ですよ。心配ありません。」
「……。」
 これは、ヘルマンの苦労を台無しにしてしまうわがままだ。
 そう思っているのに、震える足は、いう事を聞かない。薬包を持った手が震える。
「っ……私が……他の人を好きになる日が来ると……?」
「世の中に、男性は星の数ほどいますよ。」 
 俯いたサーフィに、そっけない声が降り注いだ。
 涙がポトンと一粒、枯葉の上に落ちた。
 ここ数日、泣いてばかりだ。色々な涙があったが、一番心に突き刺さったかもしれない。 
「……私は、自惚れていたようです。」
 手の甲で目端を擦って、無理に笑おうとした。……上手くできなくて、みっともない顔になってしまったけれど。
「魅力的と言ってくださいましたので、もっと一緒にいてくださると、思っていました。」 
 ヘルマンが、困ったような顔をした。
「僕は、君の幸せを願っています。それだけですよ。」
「え……?」
「そういえば昔、質問に答えられるまでは、君と一緒にいると、約束しましたね。」
――約束?
 一瞬間をおいて、遠い昔にした質問を、思い出した。

“ヘルマンさま、愛とは、本当にすてきなものですか?”

 サーフィの頬を、ヘルマンの指先が軽くなでる。
「――Nein(いいえ)。それが、僕の出した結論です。」
 アイスブルーの瞳が、苦しそうに歪んだ。
「麻薬のように中毒性があり、正常な判断を狂わせる……ひどく厄介で、始末におえない感情です。」
「……。」
 いつでも冷静で計算ずくめの貴方が、そんな感情を抱いたのですか?
 それは……誰に対して?
 しかし、それを口にするまでの勇気を培う時間は、与えられなかった。
「そういう事で、質問に答えると言う約束は果たしました。これでもう、君の傍にいる義務はありません。」
『義務』

 突き放すような口調の中で、その単語はひどくサーフィの胸を刺した。
「あ……ありがとうございました。」
 やっと、それだけ言えた。唇をかみ締め、ヘルマンに背を向ける。
 歩き出そうとした時、突然後から、強く抱きしめられた。
「……へるまん……さま……?」
「……。」
 無言ながら、まるで、行かないでくれと必死で引き止めるように、息も止まりそうなほどきつく腕がまきつく。
「……。」
 しかし、耳元でかすかに感じたヘルマンの唇の動きは、やっぱり声にならなくて……。
 抱擁が解かれ、トン、と軽く指先で背を押された。
 今度は、はっきりと聞こえた。

「さようなら、サーフィ。その自由は、君が僕から勝ち取ったものですよ。」

 あわてて振り向いた時には、もうヘルマンはきびすを返して立ち去っていく所だった。
 一度も振り返らず。白衣の後姿は闇の中に遠ざかっていく。
「ちょっと、何してんだい!」
 アイリーンにせっつかれ、サーフィは我に返った。
 落ち葉を踏みしめ、急いで二人の女性達の下へ向かう。
 彼女ももうそれ以上は、振り返らなかった。



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