投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

氷炎の舞踏曲
【ファンタジー 官能小説】

氷炎の舞踏曲の最初へ 氷炎の舞踏曲 45 氷炎の舞踏曲 47 氷炎の舞踏曲の最後へ

白銀の獣、についての記述。-2

「厄介な薬ですよ。三日間、続けて摂取させる必要があるうえ、ホムンクルスの身体が十八歳以上にならなくては効果がありませんのでね。おまけに、摂取のさせかたは品が無い。」
 小瓶を眺めながら、ヘルマンは苦笑する。
「ヘルマンさま!!」
 自分でも驚くような、悲鳴のような叫び声が上がった。
「どうして……どうして!私のために、誇りを捨てて下さったのですか!?」
 唇が、わなわな震える。
「それでは、それでは……まるで……ヘルマンさまが……」
 緊張と困惑とで、最後は消え入りそうなほど小さな声になってしまった。
「わ、私の味方のようでは、ありませんか……」
「君のため?」
 可笑しそうに、ヘルマンが笑う。
「とんでもない。全部、僕のためです。」
「ヘルマンさまの?」
「あまり気が進みませんが、正直に懺悔しますよ。」
 はぁ、とヘルマンが深いため息をつく。
「君に治療薬を摂取させるなら、僕がやりたいと……まぁつまり、ちょうどいい口実を設けて、君を抱きたかったのですよ。」
「ええっ!?」
「君は僕を買いかぶっているようですがねぇ。僕も所詮はただの男ですよ。魅力的な女性に欲情するのは当然ですし、付け込む隙があれば、まぁ……ね。」
「ヘルマンさまも……私の母を好きだったのですか……」
 思わず出てしまったサーフィの呟きに、ヘルマンが眉をひそめた。
「はぁ?一体、どういう思考回路をしていたら、そうなるんですか?」 
「え!?あ……先ほど、魅力的だと……」
「っ……君という人は……!」
 ヘルマンは額に手を当てて、大きくため息をついた。
 信じがたいものを見るような呆れ顔で、ジロリとサーフィを睨む。
「君の事を言ったのに、決まっているでしょう。」
「私……を?」
「僕は、君の母上をロクに存じませんと、申し上げたと思いますがね。」
「……。」
「僕が知っているのは、君自身だけですよ。」

 頭の中がグチャグチャで、なんと言ったらいいか解らない。
 今までずっと、常にサーフィは、「東のサーフィ」の代理人形だった。
 カダムは勿論、それを承知で造ったヘルマンからも、そう見られているものだと思っていたのに……。
「……っ」
 知らず知らずのうちに、涙が頬を伝って、ポタポタと足元に落ちた。
「ヘルマンさま……私……わたしは……っ……なり…たかった……」
 夜毎見る夢に引きずられ、いつのまにか自分自身でさえも、自分が何者なのか、わからなくなってきていた。
 いや、本当は『東のサーフィ』が、羨ましかったのかもしれない。
 最期こそは不遇のものだったが、彼女は父母や友達に囲まれた幸せな子ども時代をすごし、尊敬する主君に使え、愛する男性と結ばれ、いつでも自分を偽ることなく生きた。
 カダムへの恨みを引き継ぐ事で、誰にも必要とされない吸血姫でなく、沢山の人に愛された『東のサーフィ』になりたかったのかもしれない。

(…………。)

 サーフィの内側に巣食っていた声は、何も言わなかったけれど、小さく微笑まれた気がした。
――――そして、『彼女』は消えてしまった。

「っ………。」 
 ヘルマンは黙って涙を拭ってくれたが、それについては、何も答えなかった。
「……それに、治療薬を作ったのは、君への借りを返すためです。」
「私はヘルマンさまに何も……」
「昔、君は僕のケガに泣いてくれたでしょう?あれがね、とても嬉しかった。」
「あ……。」
 あの日の事は、サーフィもはっきり覚えている。
 だが、急いでヘルマンが立ち去ったのは、余計な気遣いをしたと、怒らせてしまったのだと、ずっと思っていたのに……。
「そういう事でして。全部、僕の勝手な都合です。」
 ヘルマンは、ひょいと肩をすくめた。
「それで、ソフィア王妃にまで、一芝居うって頂きました。」
「王妃さまが!?」
 今の会話だけで、もう何度目かにサーフィの目が丸くなる。
 ソフィア王妃は、憎い自分を傷つけるため、ヘルマンを使うように、カダムへ進言したはずだったのではないか!?
「彼女は聡い方です。下種な夫を操るには、自分も同じ下種を装うのが一番だと、よくご存知でいらっしゃる。」
「な……なぜ…王妃さまが……。」
 憎まれこそすれ、親切にしてもらう理由は見つからない。
 しかも、あのプライドの高い女性が、わざと自分の品位を貶めるような事を口にしたと言うのか。
 だが、ヘルマンはそれには答えなかった。
「血を必要としなくなった君は、もうこの城にすがる必要もない。どこに行くのも自由ですが、一つ仕事を紹介させて頂けませんか?君を雇いたいという方がいらっしゃいます。」
「私を?」
 急にアチコチへ話が飛ぶので、内容についていけない。
 その時、扉の外から、コツコツと石畳を歩く足音が聞こえた。
 足音をまったく立てないヘルマンとは違い、女性の靴らしい足音が、はっきり聞こえてくる。
 ヘルマンが扉を開けると、大輪の黒薔薇を思わせる王妃が立っていた。黒い巻き毛は地味にまとめられ、着ているドレスもいつものような豪奢な目立つものではなく、黒い簡素なドレスだったが、気品というのは、装いではなく本人から発するものだと、彼女を見ればすぐわかる。
「サーフィ。王都に向かっているイスパニラ軍まで、わらわを護衛しておくれ。」
「王妃さま……。」
 薄暗い牢獄にはまるでそぐわない、この美しい王妃の登場にも驚いたが、彼女の言葉は更に驚愕的だった。
「王都に、イスパニラ軍が!?」
 ソフィアが王妃になっている事で、シシリーナとイスパニラは、友好条約を結んでいるも同然のはずだ。
「君が知らないのは無理もありませんが、イスパニラは僕の祖国フロッケンベルクと手を組みましてね。シシリーナを乗っ取る事に決めたんですよ。」
 まるで、チェスの試合を解析でもするように、平然とヘルマンは言い放つ。


氷炎の舞踏曲の最初へ 氷炎の舞踏曲 45 氷炎の舞踏曲 47 氷炎の舞踏曲の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前