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氷炎の舞踏曲
【ファンタジー 官能小説】

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君の一番欲しい物。についての記述。-1

 更に五年、時は流れた。

 初夏の眩しい日差しと濃い緑の香りが、開け放した窓から書斎へ、ここちよく流れ込んでくる。
 ヘルマンの書斎は居間と同じで、えんじ色とこげ茶で統一され、やはり掃除と整頓が行き届いていた。
「ヘルマンさま。少し、意見をお伺いしても宜しいですか?」
 図面を描いていたヘルマンは、ペンを置いて振り向く。
 部屋の片側に置かれたテーブルセットの椅子には、先ほどからサーフィが静かに腰掛けている。
 仕事をしているヘルマンに、サーフィが話しかけるなど、珍しい事だった。
「どうぞ。何ですか?」
「最近……いえ、ずっと前から、よく東の国の夢を見るのです。」
「はぁ。」
「私は、東の国に行った事はございませんので、小さな頃は、ただ不思議な町の夢を見ただけだと思っておりました……。」

 サーフィが語る、夢に出てくる光景は、ヘルマンが噂に聞いた東の国の様子と、確かに一致しているようだった。
 木と紙で作られた、平屋建ての民家が立ち並ぶ街。
 行き交う人々は皆、赤い瞳と白銀の髪の容姿で、ドレスやキュロットではなく、腰帯で止めたバスローブのような「キモノ」を着ている。
 都の中心には、灰色の石と漆喰壁で作られた巨大な城がそびえ、香木の炊かれた大広間の高座には、この国の民で唯一、漆黒の髪を持つ女王が、悠然と腰をかけている。
 女王の傍らで警護にあたっているのは、キリリとした表情の女性達だ。いずれも刀を腰に下げ、軽装の武装をしている……。

「はぁ。興味深いお話ですね。」
「まるで、その場にいるように感じるのです。」
「ホムンクルスは、ベースとなった人物の全てを引き継ぎますからね。記憶の一部を引き継いでいたとしても、不思議ではありませんよ。」
 過去に行われた、ホムンクルスの研究結果にも、幾度かこのような事例はあった。
 全ての記憶までは保有してなくとも、サーフィのように故郷の夢をみたり、強く印象に残っている場面が、突然フラッシュバックしたりするらしい。
 しかし、サーフィは安心するどころか、更に表情を強張らせ、また尋ねた。
「ヘルマンさま。私の母は、本当にひどい悪女だったのでしょうか?」
「……。」
「カダムさまや他の男性に、たくさんの金品を貢がせ、東の国にいられなくなったあげくに、この国でも悪事の限りを尽くした女だと、私は教えられてきました。」
 ヘルマンは、無意識に右手を顎にあて、考え込む。
「カダムさん……国王は、確かにそう主張してますねぇ。」
「そう……ですか。」
「生憎ですが、僕は彼女のお人柄を、存じないのですよ。何しろ僕が見た時には、既に意識のない重傷者でしたので。」
 ヘルマンが知っているのは、彼女の「サーフィ」という名前。それから東で若くして将軍の職についていた事。前王家に使えていた城大工との間に家庭を持っていた事……それくらいだ。
 彼女の夫も息子も、彼女が捕らえられた際に殺されてしまっていたし、ヘルマンもそれ以上詮索する気はなかった。
「母上について、何か納得のいかない部分でもありましたか?」
「……いいえ。」
サーフィは悲しそうに、首を振った。
「所詮はつまらない夢です。忘れる事にいたします。」
「そうですか……それでは、僕からもお尋ねして宜しいですか?」
「え?」
「君の誕生日に、何を贈れば宜しいでしょうか?」


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