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氷炎の舞踏曲
【ファンタジー 官能小説】

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孤独な少女についての記述-2

ヘルマンに提供された自宅は、城の敷地内にある離れの一軒屋だ。
 こぢんまりとした二階建ての建物で、洒落たステンドグラスの窓がついている。
 各所に優雅な細工が施され、女の子の可愛らしい夢を具現化したような家だ。
 品位のある見た目は、ヘルマンの好みとして申し分ないし、適度な広さで使い勝手もいい。
 しかし、自宅としてここを要求したのは、もっと密かな別の理由がある。
 こっそり調べた所、昔から王妃や姫の憩いの家として使われていたここには、市街地まで通じる地下通路があるのがわかったからだ。
 カダムがそれを知らなかったという事は、自分で豪語していたほど、王の信用を得てはいなかったのだろう。
 ろうそくに火をつけて、サーフィを居間へと促した。

 建物を譲り受ける際に、新たに炉を据え付けて実験室の設備を整えたりなど、少々改装をしたが、それほど手を加えてはいない。
 えんじ色とこげ茶で統一され、趣味の良い調度品のおかれた居間は、どこも清潔で全てがきちんと整頓されていた。
 服装も室内もきっちりとしているのが、彼は好きなのだ。
 忙しい時はメイドに掃除を頼む事もあるが、大抵は自分でやる。
 サーフィのケガに薬を塗って包帯を巻いてやりながら、またため息が出そうになった。
 何だって、こんな事になってしまったのだろう。
 カダムから、サーフィの教育を命じられたのは確かだが、錬金術師としても、自分の造った彼女へ興味があった。
 最初のうちは、問題なかった。
 カダムの言った通り、サーフィの剣術センスは卓越したもので、ヘルマンは影からこっそり見守るだけでよかった。
 数年前までは、サーフィはむしろ、ヘルマンを嫌っていたようにも思う。
しかし、ある日を境に、彼女の態度は急変した。
理由はなんとなく思い当たるが、そうたいした事ではなかったのに……と、不思議だった。
なぜか彼女から好かれる事に、なんとなく居心地の悪さを感じないでもなかったが、ともかく教師ごっこをする以上、多少は懐かれても悪くない。
……そう思う事にしていた。

 ところが、次の段階はいけなかった。
ある日忍び込んだ暗殺者はかなり訓練されたプロで、彼女が斬り付けられそうになったとき、ついヘルマンは手出ししてしまったのだ。
 それが、とんだ失敗だった。
 それ以来サーフィは、どんなに弱い刺客でも、追い詰められ殺されそうになる。
 明らかに、ヘルマンの助けを期待しているのが、見えすいていた。
 不愉快な子どもだと、苦々しく思う。
(今度こそ、絶対に助けるものか。)
 なのに、そう思いながらも、気づけばいつも助けている。そしてサーフィはますます甘ったれる。護衛の育成どころか、ダメにしているようなものだ。
「……良くありませんね。」
 サーフィの上腕に薬を塗り、包帯を巻きながら、ヘルマンはため息をつく。
「サーフィ。君は、いつも僕が助けに来ると思っていませんか?」
「…………。」
「僕がいつまでも居るとは、限りませんよ。」
 実際、ヘルマンはここにいる事に、かなり嫌気がさしていた。カダムは必要な研究資金や素材は惜しみなくくれる。
 しかし、それでもあの男はどうも気に喰わないし、何より……
「ヘルマンさま、どこかに行ってしまうのですか!?」
 長い白銀の髪を跳ね上げ、サーフィが叫ぶ。
「お願いです!ずっとここに居てくださいっ!」
―――これだ。
 心の中で、もう一度こっそりため息をつく。
 一番気に喰わないのは、サーフィだ。カダムはまだ我慢できる。あの男が何を言おうと、どうでもいいのだから。
 しかし、この少女はどうにも神経に触るのだ。
 ヘルマンがまるで唯一の存在みたいになつき、隙あらばかまってくれと、擦り寄ってくる。
 こんな不愉快な子ども、どうでもいいはずだ。と、何度も自分に言い聞かせた。
 むしろ、懐いているなら好都合。実験動物と見ればいい。
 適度にアメを与えておけば、データを取るのにも快く協力するだろうし、飼いならしておいて、損になる事はないはずだ。
……そうすればいいのに、なぜかヘルマンは、そうしたくないのだ。
 そのクセ、先程のように手助けだけはせっせとし、何か言いたそうに、チラチラ横目で見ながら立っているのを見れば、挨拶したり、声をかけたりしてしまう。
 そうすれば、この孤独な少女が、どれだけ嬉しそうな顔をして喜ぶか、知っているから。


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