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真夜中の淫謀
【レイプ 官能小説】

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終わりのない恥辱-4

 アパートやマンションが立ち並ぶ住宅街を抜け、閉じられたシャッターばかりが目立つ小さな商店街を通って大通りに出た。まだ5月だというのに真夏のような日差しが降りそそぐ。眩しさに思わず目を細めた。

 大きな交差点に面した場所にある眼鏡屋の古ぼけた時計が示す時刻は、午前11時。時間の感覚がまるでない。ただ、ひどく疲れていた。足元がふらつく。前日は緊張感で食事どころではなく、ほとんどなにも食べていなかったことを思い出した。そのまま一睡もしていないのだから、疲れているのも当たり前だった。

 目についた大手チェーン店のカフェでチーズトーストとコーヒーを買い、出入り口近くの空席に座る。女の子同士のグループ客が多い。きゃあきゃあと楽しげな会話があちこちから聞こえた。ガラス張りの店内からは外の様子も良く見える。日曜日のお昼前、買い物にでも出かける途中なのか、家族連れや友達同士で連れ立って歩くひとたちで賑わっていた。ショップのショーウインドウには涼しげな夏物の洋服が飾られている。

マミとこの先、笑いあって一緒に買い物に出かけることは二度と無いだろう……

頭に浮かんだ考えを振り払う。

店内に充満するコーヒの香りに少し目が覚めたような気持ちになった。焼き立てのパンにとろりとかかった黄金色のチーズが食欲をそそる。歯をたてるとしっかりと焼けたパンの耳がカリッと良い音をたて、バターとチーズの風味が口いっぱいに広がった。

 なにもかもを忘れて夢中でトーストを食べきった。美味しい。ミルクと砂糖をたっぷりと入れたコーヒーも優しくみずきを癒してくれるような気がした。気持ちが緩んだ途端、堪え切れない感情の波が押し寄せてきて、理由のわからない涙がぽろりと流れてきた。

 あわててバッグからハンカチを取り出して顔を隠す。一樹くんに会いたい。声が聞きたい。考えないようにしていた思いが溢れだす。携帯電話のアドレス帳から番号はすぐに見つかって、みずきはほとんど無意識に斎藤の番号を押していた。

 コール音が鳴り続ける。永遠のように思える時間。8回を数えたところで、ぶっきらぼうな声が電話に出た。

「……はい」

「あ、一樹くん?わたし、みずき。あのね、少しでいいんだけど、いまから会えないかな」

 電話の向こうで車のクラクションや人のざわめきが聞こえる。外出しているのだろうか。ほんの少し間があって、斎藤が答えた。

「無理だ。もう終わりだって言っただろ?話すことなんて何もないし、会いたいとも思わない。もうかけてこないでくれ」

「待って、ねえ、少しだけでいいの……」

 プツリと電話が切れた。予想できた答えのはずなのに、内臓が内側から捩じられるような痛みを感じた。どこかで優しい言葉を期待していた自分。馬鹿な自分。それでも声が聞けたことが嬉しかった。こんなに大好きなのに、本当に大好きなのに……

 携帯電話をバッグに放り込み、最後にひとくちだけ残っていたコーヒーを飲みほそうとカップを手に取ったとき、それは見えた。

 ガラス越しに見える景色のなかで、斎藤が笑っていた。大きな交差点の横断歩道を、大勢の人に紛れながらこちらにむかって歩いてくる。輝く太陽の光を全身に受け、白い歯をいっぱいに見せて笑う、みずきの大好きだった優しい顔。立ち上がって手を振ろうとしたところで、思いとどまった。

 斎藤の笑顔は、隣を歩く女に向けられていた。白いノースリーブのシャツにふんわりとした素材のスカート。すらりと長い手足、華奢な肩の上をさらさらと流れるつややかな黒髪。微笑を浮かべて斎藤の隣を歩いているのは、あのエリナだった。

 その右手がしっかりと斎藤の大きな手に握られているのを見て、みずきは叫び出しそうになった。わたしが手をつないで歩きたいって言ったときは、あんなに嫌がっていたくせに。どうして? どうしてエリナなのよ!

 ふたりはみずきの視線に気付くこと無く、ほんの一瞬で通り過ぎてしまった。すべての音が聞こえなくなり、目に映るものは色を失った。手足から血の気が引いていく。静寂とモノクロームの視界の中、みずきは煮えたぎる怒りと憎しみでどうにかなってしまいそうだった。


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