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あさいふち
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あさいふち-2

 夜は、月が見えた。
 月の光が、倉庫と、湾を照らしていた。
 倉庫の端に、くぼみができていた。そのくぼんだ土草に、二人の男が重なりあっていた。二人の男は、青年だった。
 上の青年は、息を殺しながら、下の青年の口をふさぎ、ズボンを脱がしていた。下の青年は、顔を赤らめながら、必死でそれをふりきっていた。しばらくすると、月光がすうっと傾き、彼らを照らした。下になっていた青年は、観念したのか、ほろりと涙を流すと、月を見上げた。上の青年は黒ずんで見え。上下に揺れながら、腰に熱いものを感じていた。
 責人者が、変わらぬみだしなみで、その横をとうりすぎる頃には、二人は消えていた。


 男たちの黙秘。
 「俺達が何故ここに居座るのか、判らない。お互いに、口をきかずに働いて、金と飯があれば、どんな金持ちよりも幸せだと感じるやつらばかりが、集まる集落なのだ。
 そして、面倒に巻かれたくないがためだけに、側によっても無視し会う。何の異相も感じない。ごくあたりまえの『N6』のルールなのだ。
 『N6』というこの倉庫街は、潮風が鉄を錆さす、滅びゆく土地なんだ。湾岸に面しているからだ。と『外の人間』はいう。しかしそれは間違いだ。『N6』は、東京から見棄てられた異邦人の棲む街なのだ。第二の部落ってやつだよ。
 大昔には、ありふれた家庭や、都会の乾いた心に存在した。過去の愚物を『N6』が次世代にひきうけたに過ぎない。それは、黙視しても、人間だれもが知って味わったことのある、負の絶頂。
『N6』に棲む男たちは、十二人いる。理由は多分似たようなものだろうが、お互いの無視からうったえる負の絶頂とやらを、この土地でない、どこか違う他の幸せな土地で味わってきたのだろう。幸せな土地に吹く風や、家や、仕事に、予期せぬ悪邪風が吹き込み・・・・いまも俺達は邪風でからだが弱っているに違いない。
 一人、一人と『N6』を去る。誰もとめやしない。『N6』も、外の世界も、黙視無視というほかに違いはない。さっていく大古の背は丸かった。
 ここは『N6』。
 『外の世界』も、この土地にも、潮風がいつから邪風になったのだろうか。錆色の街が、人のこころを疲れさすのか。そう、と感じるのは著者だけだろうか。 
 国道の東京駅行きが、延々と横なびいている。そして『N6』の境界線ともなっている。長くてさみしい、静寂のアスファルト。
 東京の空は、今日も晴れている。だから今夜も、浅い縁に、来客があるのかもしれない。
 
 終。


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