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「ふたつの祖国」
【その他 推理小説】

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前編-7

「探偵業をなさっているそうで……」

 参拝する松嶋の背後から、島崎が声を掛けた。
 しかし、反応はなく、墓碑に手を合わせている──想定内なのか。

「公安の方が、どういった経緯で左倉さんと面識があったんです?」

 挑発的な言葉に、松嶋は参拝を止めて振り返った。

「静かにしてくれないか。まだ、左倉さんと話をしてるんだ」
「それは申し訳なかった」

 島崎は、二、三歩後方に下がって松嶋が参拝し終えるのを待った。

「──三ヶ月前。京都府の経ヶ岬付近に、一隻の小型船が漂着しているのを地元民が見つけた……」
「なに……?」

 松嶋は、ゆっくりと立ち上がると、振り返って意味不明な言葉を発しだした。

「……それは、一見すると漁船のようだが、作りが木製の上、あり得ない識別標を付けていた。大分県の船だという識別を」
「……例の共和国製か?」
「そう。今どき木製の漁船なんて、日本中探しても無いだろう」
「それが、どうしたんだ?」

 島崎は、緊張した面持ちで問い掛けた。一方、松嶋は余裕さえ感じさせている。

「別に……そういうのを調べるのが、俺の仕事だった」
「左倉さんとは何処で?」
「殺人事件の被害者が、外国人や在日人の際によく出会したな」

 ──どういう事だ?
 これまで、此処で会っても挨拶以上の言葉を交わさなかったのに、何故、今日に限って。
 俺と左倉さんとの関係を知って、話す気になったのか。

「おかしいじゃないか。左倉さんと現場で顔を会わす程度なのに、何故、名誉回復に尽したんだ?」

 ──だったら、知ってる情報をぶつけて反応を見てやる。

「偶然だ。別件の仕事と左倉さんの件が繋がっていたのさ」
「それは、宮内が持ち込んだ仕事だな?」

 その瞬間、松嶋の心が揺さぶられた。
 必死に島崎の顔から何かを読み取ろうとするが、その表情からは、洞察しうる程の変化は見受けられなかった。
 逆に島崎には、松嶋の狼狽えぶりがすぐに分かった。

「何処で宮内の事を?」
「簡単だ。宮内はかつて、俺の部下だった」

 あっさりと手の内を明かされた事に、松嶋は口の端を上げて笑った。

「なるほど。世の中、広い様で狭いな」
「ところで、先ほどの不審船情報は最近のだが、今でも公安との繋がりが?」
「ノーコメント。悪いが、情報源は明かせないんだ」
「そうか……」

 島崎は思った。
 真偽の程は確認しなくてはならないが、“松嶋は使える”だと。

 ──ここからが本番だが、どんな反応を見せるのだろうか?

「その情報収集力。俺に貸してもらえんかな?」
「警察に……?」

 松嶋の中に、疑問が涌いた。


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