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「ふたつの祖国」
【その他 推理小説】

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前編-16

「出ました!主に顔料や染織、化粧品の材料として使われてます」
「化粧品?何故、そんな物が皮膚の下から……」

 島崎を含め、男性達が首を傾げる中、中島が直感的に閃いた。

「こ、この死体、MRI検査に掛けましょう!」
「ああッ!そうか」

 すぐに岡田も同意した。が、男性達にはさっぱり解らない。

「刺青ですよ!この死体は、刺青を入れていますッ」
「刺青を?」
「朱色や黒の墨に酸化鉄が使われていて、MRI検査を行うと、墨が反応して火傷を起こすんです」
「へぇ。よくそんな事知ってるな」
「同様の理由から、化粧を施したままMRI検査は出来ないと誰かに聞いていて……」

 まさに、女性ならではの推考だと男性達は感心した。

「刺青の模様から、何か手掛かりが出るかもしれません!」
「分かった。但し、何も出なかった場合、経費の掛け過ぎだと言ってくるんでな」
「結果が出るまでは発表しないんですね。分かってます」

 すぐに、科捜研への追加依頼がなされた。

「それから、頭部の潰し方だが、建設機器による実行は外していいな」
「どうしてですか?」

 善波一樹が訊いた。
 彼を含む藤沢俊介、児島敏也、斉藤英雄、中島真理子等一同は、建設会社との関連性を確かめる為、コンピューター庁のホームページからと、法務局に出向いて登記簿を調査して来たばかりだった。
 今の決定からすると、一日掛けて行った作業が、全て無駄足だった事になる。
 捜査自体、徒労に終わるのは珍しい事ではない。が、しかし、だからといって、簡単に納得して切り替えられる物ではない。何か理由が欲しかった。

 そんな善波達の心情も、島崎は察している。

「この“瞬間的に強い力が均一に掛かった”という結論は、ローラー車や杭打ち機、鉄球を使用しては得られない。均一に掛けるのは無理だからだ。
 そうなれば、プレス機と考える方がしっくりくる。お前には申し訳ないが……」
「分かっています」

 善波は話を断った。これ以上の説明は要らない。拠り所さえあれば気持ちは切り替えられる。

「老人が見たトラックの件は?すぐにNシステムのデータベースに照会しましょうか」
「いや……」

 島崎は考えた。
 暗闇の中で見たというのは、黒いトラックで間違いないのかと。
 一日、二日なら記憶に新しいが、十日前ともなると、曖昧になり易い。ましてや目撃者が老人では、鵜呑みにするのは危険である。

「明日、もう一度確かめに行ってくれないか?」
「えっ?明日もですか」

 鶴岡と岡田が、怪訝そうな顔で互いを見合せる。

「本当に黒いトラックなのか、もう一度確認してくれ。間違いなければ、直ちに照合だ」
「分かりました」

 ひと度、命令が下されれば私情を挟む余地はない。真摯に受け止め、遂行するのみだ。


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