投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

「カオル」
【その他 その他小説】

「カオル」の最初へ 「カオル」 64 「カオル」 66 「カオル」の最後へ

last-8

「薫くん!」

 振り返った薫は、驚き、そして次に怯えた。ひとみは傍に寄ると、むりやり肩を抱き寄せる。

「そんなに怯えないでよ。一緒に帰りたくて追い掛けて来たんだから」
「ぼ、僕に構わないでよ……」
「そんな事言うんなら言っちゃうよ。女装好きだって」

 薫は口を噤んだ。

「そうそう。知りたい事教えてくれたら何にもしないから。歩きながら話そう」

 ひとみはそう言うと、薫が通学路を帰る道すがら、色々と聞き出したのだ。

「薫くん言ってたわ。自分は最後まで嫌だったのに、無理矢理お姉ちゃんに引き擦り出されたって。
 外を歩いている時も、嫌で嫌で堪らなかった。でも、お姉ちゃんが喜んでいる顔を見たら言えなかったって」

 妄想とも呼べる愛──。
 小学校高学年の頃から、五歳年上の姉の本を読んでいた。
 同性同士が愛を営む画に、異様に引き寄せられる自分を知った。
 漫画とはいえ、美しい女性同士が様々な状況で乱れる姿は、幼い心ながらも、淫靡さと高尚さを感じていた。

 ──自分もそうなりたい。

 その内、自身を漫画のヒロインに見立てて、物語にのめり込む様になった。
 いつしか、自分も現実の世界で漫画のように愛されたいと、夢を抱いていた。

 そこに真由美が現れた。
 色黒の肌に目力が有る、美人とは言い難いが整った顔立ちの女の子。
 ひとみは、ひと目見た途端に真由美の事が好きになった。
 後を追って進学塾にも通い始めた。何とか親しくもなった。
 しかし、自分の性を知らない真由美とは、普通以上の存在には成り得なかった。
 ひとみが望んでいたのは、“普通以上”の関係だった。
 やがて、妄想の中で自分と真由美は相愛の中だと置き換えては、寂しさを自らで慰める日々を送っていた。

 そして、合宿の日。
 親密になる機会だと思い、これまで以上に近付こうと覚悟を決めた。
 自分を知ってもらおうと、愛読書を荷物の中に忍ばせて持って行く事にした。
 否定された場合を考えると、一種の賭けだったが、真由美は受け入れてくれた。
 とても嬉しかった。自分自身を認められたと思った。

 頭の中だけで自己完結していた愛は、やがて狂信者の如く、現実との境界が見分けられなくなっていった。

 ──これ程までわたしは好きなのに、真由美はわたしに嘘を付いた。

 愛が深ければ深い程、裏切られた時の憎しみもまた深い。

「──結局、貴女は自分の欲求を満たす為に弟の性を利用してるのよ!」

 ひとみの目は濡れていた。
 裏切られた事で、相愛でない現実を突き付けられたからだ。


「カオル」の最初へ 「カオル」 64 「カオル」 66 「カオル」の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前