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「カオル」
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last-4

 2009

「どうぞ……」

 女性の前に、シャンパンのハーフボトルが置かれた。

「久しぶりね」

 女性が空のグラスを手にした。
 薫がシャンパンを注ぎ入れる。飴色の液体が、グラスの中で弾けた。

「貴女もグラスを持ったら?」
「はい……」

 今度は、女性が薫のグラスにシャンパンを注いだ。

「何に乾杯しますか?」

 薫が訊いた。目が喜んでいる。

「11年ぶりの再会に……」

 女性はそう答えてグラスをあげた。彼女も微笑んでいる。
 グラスが重なり、互いが口許へと運んだ。グラスが傾き、喉が上下する。二人は最後のひと滴まで飲み干した。
 グラスが置かれた。
 重なる視線は、無言の会話を交わしている。二人だけの、他人が決して立ち入る事が出来ない領域で。

「武田さん、ごめんなさいね」

 薫が武田に非礼を詫びた。
 武田は「気にしなくていいよ」と言いながら、薫とこの女性の“ただならぬ関係”が気になっていた。

「薫ちゃん、こちらは?」

 もたげた好奇心を、武田は抑えきれなかった。
 薫は、少し困った顔になって女性に視線を送った。
 彼女は薫の、瞳の奥にある意味を理解すると、小さく頷いた。
 薫も頷き返し、武田の方に目をやった。

「この人は、わたしの姉なんです」

 あの睦まじかった頃より、シャープな顔立ちと鋭い眼をした真由美がそこにあった。

「へぇー、お姉さん」

 武田は内心驚いた。
 際立つ程の美貌を持つ薫と 、隣に座る地味目な女性が姉妹とはとうてい見えなかった。

「とても、彼女の姉とは思えないでしょう?」

 気持ちを察した真由美が武田をからかう。

「い、いえ。似てない姉妹なんて幾らでもいますよ」

 ズバリ見抜かれてしまい、慌てて取り繕う武田だがフォローになっていない。

「姉は、わたしにとって一番の理解者なんです」

 真由美を見つめる薫の眼は、とても柔らかい。それは真由美も同様で、武田には一種の慈愛の様に見える。

「こんなに仲が良いのに、11年ぶりの再会なんて……」
「色んな事情があって、一緒に住めなかったんですよ」
「そんな日に偶然、出会す俺はついてるな」

 感慨深い気持ちを口にして、武田はグラスを呻った。


 一時間程して、武田は帰って行った。

「お姉ちゃん……」

 真由美の手に、薫の手が重なった。

「今日は、家に泊まらない?」
「いいわよ。明日は休みだから」

 二人の瞳は、心なしか潤んでいた。






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