投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 526 やっぱすっきゃねん! 528 やっぱすっきゃねん!の最後へ

やっぱすっきゃねん!VS-13

 一方、有理は切れた電話をしばらく見つめていた。

(今頃になって……)

 昼間の試合からずいぶんと経っている。何故、こんな時刻になってと考えていた。

「まあ、いいわ……」

 有理は考えるのを辞めた。
 人の行動に伴う理由なんて、本人以外には解らない。推測するだけ無駄だと思った。
 受話器を戻した有理は、リビングの扉を開けた。母親が、テレビで映画を観ていた。

「電話、何って?」

 母親が、画面から目を離さずに訊いてきた。

「帽子に字を書いてくれって。野球部の人で、明日が決勝戦なのよ」
「わざわざ有理に?珍しい」
「前も書いてあげたの。だからでしょう」
「前も?」

 言葉の不可解さに母親の視線は、テレビ画面から娘へと切り替わっていた。

「ええ。去年ね」
「ちょっと、それって……」
「えっ?なあに」
「い、いえ。何でもないわ」

 ──まさかそんな。母親は、頭に浮かんだ言葉を否定する。
 我が娘ながら、自分とは真反対の性格。幼い頃から本と勉強の虫。大人しそうで我が強い。
 だから、小学生の頃は友達と呼べる存在も少なかった。

(でも、中学生になって随分と変わったし……)

 それは去年くらいからだった。何処がというのでないが、雰囲気が柔らかくなったのだ。

「変なの。言い掛けて止めるなんて……」

 母親は考えを改める。やはり、友達という存在は大事なのだと。

「今から来るそうなんで、此処で待ってるわ」
「どうぞ。テレビでも観てなさい」

 就寝前のひと時。母親は突然、現れた娘の姿に微笑ましさを感じていた。


 自転車で10分程の距離なのに、何度も間違えて20分も掛かってしまった。

(こんなに掛かっちゃ、怒ってんだろうな……)

 目の前には、外灯に照らされた家があった──表札には相田と刻まれている。
 自転車を降りて、玄関前に立つ。マウンドとは違う、全く異質な緊張が直也を襲っていた。

(とにかく、呼び出さないと)

 躊躇いながらも、ドアフォンを押した。扉の向こうから微かに、アラームの音が聞こえた。

 ──ちょっと待ってね。今、行くわ。

 ドアフォンのスピーカーから声を聞いた時、自分の頭が痺れていくのを直也は感じた。
 玄関扉が開いた。
 目の前に、何時も見るのとは違う、部屋着姿の有理が現れた。


やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 526 やっぱすっきゃねん! 528 やっぱすっきゃねん!の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前