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和合観音
【ファンタジー 官能小説】

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再び老人-1

僕は空中に浮かんでいた。目の前の老人は僕に問いかけた。

「どうじゃな? 5人の観音と和合してみて、まだ死にたいと思うか?」

白ヒゲの老人は僕に聞いた。まだ僕は空中に浮かんだままだ。僕は言った。

「5人の女性と出会って5つの死を体験しているうちに、自分は何の為に死にたいと思っていたのか忘れました。というより、きちんと生きて生を全うしたいと心から思うようになりました。」

「そうか。あの5人の1人ひとりがお前の心に奥に潜むもう1人のお前なのだ。お前はあの5人と真に結びついていなかった為、生の意味を悟ることはなかった。
だがこれでお前の心は完成した。死ぬことがいかに無駄なことかわかったのだ。
人の心にはそれぞれ土・金・水・火・木性の観音が宿っている。その5つの気のバランスが崩れると、人の心には偏りが生じるし、5つの気を欠くと生きる術を失うのじゃ。

土性は四季の性。全ての季節に通じる表現豊かな社交的な性。
金性は秋の性。人を信じて深く思い心を捧げる性。
水性は冬の性。情を殺し冷ややかに他人や自分を眺める性。
火性は夏の性。逞しく生きる情熱の性。
木性は春の性。変化と芽生えの性じゃ。
それぞれの夢ではほんの一面しかその姿を見せることが出来なかったがな。

お前は5人の観音と和合できたので5気が揃い、生きる意味を悟ったのだ。
それは言葉ではなく感覚でわかるものなのだ。
それを分からせることがわしの役目。これでわしの役割は終わった」

「ありがとうございます。で、あなたは一体何者ですか?」

僕はその老人が神様だと思った。だが、老人は言った。

「わしもお前自身の一部じゃよ。お前の知恵が人格化したものだ。
全ての人間の心の中にはわしのような賢者が住み着いている。
だがその存在に気づくかどうかで、随分生き方は変わってくるものじゃ。
さてさて……ようやく間に合った。死ぬ前にお前を説得できて役目を果たせた」

「そうですか。間に合ったのですね。僕もあやうく大事な命を落とす所でした」

「何を言っておる?わしが間に合ったと言ったのは、お前が生きているうちに悟らせることができて間に合ったという意味じゃ」

「では、僕は死ぬんですか?」

老人は微笑んで頷いた。

「さよう。わしはお前が飛び込む前にも必死にお前を説得した。
けれどもお前は耳を貸さずに飛び込んだ。
その結果を覆すことは誰にもできない。
さらばじゃ。お前が死ねばわしも、5人の観音もすべて消える。
さてもったいないことよのう」

そして僕は波しぶきの立つゴツゴツした岩に向かって、頭から落ちて行った。

僕はこの一瞬深く深く後悔した。

そして……。

        (完) 


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