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和合観音
【ファンタジー 官能小説】

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女剣闘士-1

「気がついたの? ラピデス」
女の声がした。なんだか体中がずきずきする。
顔を上げると若い女性が僕を覗き込んでいた。そこは殺風景な個室で牢獄のような部屋だった。粗末なベッドの上で寝ていた僕は体を起こした。
僕は上半身裸だったが筋肉質の逞しい体をしていた。だが良く見ると体中傷だらけだった。刀傷のような深い切り傷や刺し傷があって、乱暴な縫い方で治療してある。
僕は思い出した。夢に何度も出て来た世界だ。この娘はアウロムだ。彼女は世にも珍しい女剣闘士だ。そして僕の名前はここではラピデスと言った。
女剣闘士は罪を犯した女同士に剣を持たせ、戦わせることから始まった。罪は窃盗から姦淫、借金の不払い、身分不相応な振る舞いや服装、なんでも良かった。
どちらも鎧や楯を使わず女用の軽い剣のみで戦わせ、片方が死ぬまで続けられる。
アウロムは父親の博打の借金のため牢屋に入れられ少女時代に剣闘士になった。だが生来のすばしこさと負けず嫌いな性格から、修練に励み連戦連勝の女剣闘士になったのだ。
アウロムは首に金のネックレスをつけていた。それが彼女に許された唯一の装飾品だ。連戦連勝の女剣闘士だからと褒美に興行主が身につけさせたのだ。
そして、僕はこの世界では男の剣闘士だった。ごく最近奴隷の身から見込まれて剣闘士になったのだ。
「ラピデス、私との約束を忘れたか?」
アウロムは私を睨んだ。彼女の目は開いたパラソルを横から見たように目頭も目尻も尖っていた。直線的な三角眉はきりりとして女剣士の凛々しさがあった。
何よりも特徴的なのはその逞しい鼻柱である。鸚鵡の嘴のように中央が盛り上がって鼻頭が鉤のようになっている。
また口はしっかりと横一文字に結ばれて首の筋肉と鎖骨が浮き出て美しい線を見せている。
彼女はその美貌でもよく知られていたのだった。
「何故ラピデスはあのような戦い方をするのだ。半ば相撃ちになっても構わないような捨て身の戦い方をするなど、もっての外だ。そなたは私の代わりにあのリビデニムと戦ってくれると約束してくれたではないか」
それで私は思い出した。リビデニムは、自分の妹で情夫を刺し殺したムーリエという女が、アウロムと戦って殺されたことを恨んでいたのだ。
けれども通常は男の剣闘士は女剣闘士と戦うことはない。女と戦うことは不名誉なことだからだ。だが、リビデニムは公衆の面前でアウロムを侮辱した。アウロムは挑発されて思わず剣を抜いたのだ。
もちろん周囲が止めて事なきを得たが、自分に剣を抜いたアウロムに対してリビデニムは興行主に訴えた。女ごときに剣を抜いて挑戦されたので受けて立とうではないかと。女が剣を抜いて挑戦するということは、相手が女以下だという侮辱を与えたに等しかったからだ。
だが、アウロムがいかに連戦の剣闘士であろうとも、使う剣は男の剣よりも軽く重さも半分に等しい。まして剣闘士が使う楯で防がれれば歯も立たない。兜や鎧を身につけた相手をどのように相手をすれば良いのだ。
では男と同じように楯を持って鎧兜を身につけるとしても、女用の小さなものは作られていない。あったとしても女の力では重くて動きづらい。所詮アウロムには勝ち目がないのだ。
例えば両者とも鎧も楯も使わずに戦ってもアウロムに勝ち目はない。戦うときには剣を必ず合わせる。そのときにアウロムの剣は弾き飛ばされることは目に見えているのだ。
だが興行主は提案した。代わりに戦う剣闘士がいれば、その者がリビデニムと戦うことができる。リビデニムを負かせばアウロムを妻にすることができる。逆に負かされれば、話は振り出しに戻り、代わりに戦う者がいなければアウロムがリビデニムと戦わなければならないと。
興行主はいくら事情があったとはいえ、男と女を戦わせたという不名誉な前例を作りたくなかったのだ。
だが、リビデニムは古株の剣闘士で今まで生き残っているということはその実力はかなり上で、王侯たちにも贔屓筋がついているほどである。だから誰も名乗りあげる者はいない。
 


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