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氷の解けた日
【SF 官能小説】

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ハヤテの贈り物-1

 私はノリアに遠くに行くことになったと告げた。
だから120年以上も前の家族についての話はもうしてあげられないと。
彼女は残念そうにして涙ぐんでいた。
そしてアニョンが近づいて来るのを見て、お元気でとだけ言ってそこを離れて行った。

 そのあとアニョンが来て私に言った。
リアル・ゲームでシャン・シーターを斃したこと。
それがアシュラという不思議な勇者のお陰だということ。
彼にもう一度助けられたこと。
沢山のポイントを貰ったこと。
とても素敵な人だということ。
それらのことを一気に喋った。
そしてその後私が何を言うのかじっと待っていた。

「よかったね。力強い仲間と知り合えて。
アニョン、私はそのアシュラのように沢山のものをあげられないけれど、受け取ってほしい物があるんだ」

「それは何、ハヤテ?」

 私はDマシーンを渡した。

「Dマシーンだよ。これでDゲームができる。
一応端末に接続すれば使えるようにしてあるから。
ゲームに勝ってポイントがあがってもお金にはならないけれど、誘拐されたり、襲われたりする危険のない安全なゲームだから、ぜひ使ってみてほしい」

「ありがとう。こんな大事なものを。でもハヤテは使わないの? 
あ、そうかリアル・ゲームができるようになったって言ってたね。だから?」

「アニョン、実は……私は遠くに行くことになったんだ。
だからもう会えないと思う。それを大事に持っていてほしい」

 アニョンは小さな目を真ん丸く広げた。
黒目がちの瞳の周りに金環日食の輪のように白目が見えた。
アニョンは口をぱくぱくして何か言おうとした。そして言った。

「あのノリアという小母さんと何処かに行くの?」

 私は笑って違うと言った。
遠くに住んでいる子孫の所に引っ越して一緒に住むことになったんだと。
それにあの小母さんとはほんのちょっと口を利いただけでなんでもない。
ここでのただ一人の友達はアニョンだけだと言った。
アニョンの顔はぱっと輝いた。
そして口角をくりんと上げて言った。

「じゃあ、オンラインで会おうよ。
私のアバターを教えるから、ハヤテも教えて。
そしてずっと友達でいようよ」

 私はにっこり笑ったと思う。
今までで人に見せた中で一番優しい笑顔をしていたと思う。

「Dゲームをずっと続けていてくれれば、必ず私のアバターが分かると思うよ。
だからアニョンのアバターを教えなくてもいい。
そのときに私のアバターに教えてくれれば良いから」

 アニョンは両手に持っていたDマシーンを自分の胸の膨らみに押し付けた。

「本当? これをやってれば、ハヤテのアバターが分かるの? 
わあ、ハヤテって粋なことするんだね。
じゃあ、絶対会えるね。今度オンラインで」

「ああ、君だけの友達としてね。
でも飽きたからと言って投げ捨てないでくれよ」

「わかんないよ。ハヤテの態度次第だからね。
他の女の……いや、なんでもない。
きっと大事にするよ。ハヤテ……また会おうね、必ず」

「うん、もう時間がないから行くね」

 私はアニョンと握手した。
するとアニョンが私にハグをして来た。
彼女の胸の膨らみが私の体に当たった。
彼女は鼻の頭を私の胸に強く押し付けると、ぱっと離れて振り返らずに走って行った。
 


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