Invasion Ⅰ-2
後ろから抱きしめられるエステルの口に、小瓶が押し当てられる。口が開けられた瓶から液体がエステルの口に注がれていき、全てがエステルの口に含まれるとラスプーチンが彼女の口を素早く塞いだ。
「さっきの薬だよ。たっぷり飲んでくれて構わないよ」
片方の手でエステルの口を塞ぎながら、ラスプーチンはもう片方の手で胸甲の下からエステルの乳首を強く摘んだ。
「んぐぅっ！」
電撃のような刺激を浴び、塞がれた口から液体を吐き出すことも適わず、エステルは薬を全て飲んでしまった。
「よくできましたー」
「んっ、ぐ……はあ……はあ……」
空になった小瓶を投げ捨て、ラスプーチンはエステルから離れ、ベッドの上でエステルの様子を観察し始めた。
「な、何を……？」
「ん、君に薬が回り切るのを待つのさ。それからの方が効果が劇的だからね。
「……下衆」
「お褒めに預かり光栄です」
それ以上ラスプーチンを罵ることはできそうになかった。早くも薬が回り始め、平衡感覚が狂い始めるのと同時に、体の芯から燃えるような何かが込み上がってくるのを感じて、エステルは必死にそれを抑えることに精一杯になったのだ。
その様子を、ラスプーチンがじっと眺めている。
――蛇の目線だ。エステルを視姦するその目付きは、視線を合わさずともエステルの体に質量を伴って纏わりつく。眼、唇から首筋、そしてまだ成長しきっていない乳房を通過して、太ももとその付け根、そして細い足首にまで視線が這いずりまわる。
「くっ……」
エステルは予想を超える嫌悪感と、徐々に高まっていく官能の疼きに眼をきゅっと瞑ることで対抗しようとした。最も、性経験のないエステルにとって領の太ももの間から発せられる熱が一体なんであったのかを理解することはできなかったが。
忍耐の時間が過ぎ去っていく。常では視界が封じられようが敏感に周囲の気配を察知できるように研ぎ澄まされていたエステルの諸感覚は、この状態では完全に潰されていた。眼を瞑るエステルの頭では、暗闇に映し出される周囲の気配ではなく、熱の奔流が渦巻くばかりである。薬の影響は四肢にまで及び、その指先は酒が回ったのかというばかりに熱を帯びていたが、代わりに込める力はその場で四散してしまう。
このような状態では、仮に縄で縛られていなくともラスプーチンを倒すことはおろか、逃走することすらできないだろう。
（……まずいわね。これでは到底抵抗なんかできない。なんとかこの状態を克服しないと……）
薬物に対する訓練は受けている。毒薬や幻覚剤の類は、単独で危険な任務を行うBESTOWERSにとって身近な存在である。これに対する抵抗力を付けておくことは執行官にとって必須である。
エステルも無論法皇庁で訓練を受けた。その経験を持ってしても、この薬物の効果は劇的である。
「……そろそろいいかな？」
始まりは唐突に告げられた。じっとエステルの様子を伺っていたラスプーチンは、遂に陵辱を開始することを決断したのだ。ふらふらとベッドの上で揺蕩うエステルの体を再び後ろから抱きしめると、その無骨な胸甲を外し、拘束していた鎖を解く。
「んっ！」
自由になった体を動かす前に、ラスプーチンは素早くエステルの細い手首を掴むと、強引に引っ張りあげる。抗おうにも、エステルには込める力も残されていない。両手を挙げる形になったエステルの頭上で軽い金属音がすると、彼女の腕は一寸ほども動かなくなってしまった。
「……本当、いい趣味ね」
エステルの視線の先には、木材と留め金で作られた無骨な手錠と、それを吊るす天井の鎖が見えた。予め人間を拘束するために用意された部屋なのだろう。吐き気がするほど用意のいいことである。エステルの吊るされた腕の下には、無防備に晒された未発達の体が残されている。その体に、まずは腹部を優しく撫でるようにラスプーチンが触る。細長い腕が薄い布越しにエステルの皮膚に刺激を与えた。
「ひうっ！」
自分自身から出た小さな悲鳴に、エステル自身が驚く。男の指が布越しに体を這った。ただそれだけのことなのに、腹部から首筋へと電撃が走ったように感じられたのだ。電撃の衝撃の後には、体全体に奇妙な暖かさが広がっていく。エステルにとって経験したことのない感覚だ。薬を飲まされた前に感じたラスプーチンに触られることへの嫌悪感は、今や体全体に広がった変調によって掻き消されてしまっている。
「随分可愛い声だねえ。どうしたの？」
全てわかった上で、ラスプーチンが声をかける。腹部から脇腹に移動した指に気を取られていたエステルは、その言葉にカッと顔を険しくする。ラスプーチンにこのような声を聞かれたのが、屈辱的なのだ。
「……うるさいっ！」
脇腹への愛撫は執拗だった。元々敏感なところであるだけに、布越しの指使いだけでもエステルの体は痙攣するように跳ねる。だが後ろから抱え込まれるエステルは押さえつけられ、愛撫を受け入れるしかなかった。
「……ふっ……んっ……あはあっ！」
ラスプーチンの指は、次に背中に移動した。左腕がエステルの背中に回ると、エステルの着衣の下に潜り込んで、すっと腰からうなじまでを一息に撫で上げた。
「んひゃあっ！！」
脳天まで突き上げるような電撃を体に覚えて、エステルが制御できない嬌声を上げた。ラスプーチンはその声を聞いて嗜虐的な笑いを零す。
「くく……『うるさい』のはキミなんじゃないの？ 僕の指がそんなに良かった？」
「くっ、誰が……」