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「ふたつの祖国」
【その他 推理小説】

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序編-4

「……多分、間違いない」

 彼らの目は、コンソール中央のナビゲーター画面に注がれていた。映し出されていたのは、黒焦げの死体。彼らは何処からか、現場の様子を覗いていたのだ。

 助手席の男が深いため息を吐いた──ひどい落胆ぶりだ。

「奴らか……容赦ないな」

 画面は、死体を運び出す様子を映してる。

「とりあえず、あの刑事逹をマークする必要があるな」
「心配するな。あの県警には、“植えつけ”てある」

 その時、さっきまで鮮明に映していた映像が激しく乱れだした。

「どうやら、見つかったらしいな」
「見つけても、県警ごときにゃ解らんよ」

 運転席の男が、キーを捻ってエンジンをかけた。

「奴らには、せいぜい捜査してもらうさ」

 意味深い言葉を残し、カローラはゆっくりと離れていった。





 事案から1週間後。島崎の元に各機関からの報告書が集められた。
 監察医の死体検案書に鑑識課の現場検証報告。法医学医からの司法解剖鑑定書。そして、科捜研の科学鑑定書。
 それらを要約すると、以下のようになる。

1,死体の身長、体重の推定値は175センチ±2センチ、70キログラム±1キログラム。
2,肉体的特徴は東洋系人種という以外不明。
3,死体を包んでいた黒いシートは、農業用シートで大量生産品。
4,指紋及び足跡は不検出。
5,死体表皮と現場に残っていた油分から、揮発性燃料によって焼かれた。
6,死因不明。但し、気管の焼損が認められない事や、胸控、腹控等に裂傷が認められない事から、頭部及び頸部の損傷と推測される。
7,DNA鑑定により、死体には犯罪歴なし。

 後は、膨大な裏付けデータのページばかり。読み終えた島崎は、両手を頭に組んで椅子の背もたれに身を預けた。

(これじゃ、雲を掴むような話だ……)

 捜査できる物といえば、黒いシートと揮発性燃料。取扱ってる店は、県下だけでも相当数である。例え、地道な捜査を行ったとしても、砂漠の中から針を見つけ出すような物だ。
 もうひとつ。頭部を潰した方法もだ。仮に機械を使ったとして、実行可能な種類はどれだけあるのか。建設機器や工業用機器。これらのうち、どれが犯行に使われたのかを特定するのに、どれだけかかるのか見当もつかない。

(初手から手詰まりか……)

 死体を棄てた時刻の目撃もない。第1発見者である前田春義より以前に、死体を見た者はいないかと周辺住人及び、現場の地区を担当する新聞配達員数名に訊いたが、誰も見ていなかった。
 だとすれば、新聞配達員があの地区で業務に携わった時刻、午前3時半から4時半と、前田春義が目撃した午前6時の間に棄てたことになる。その時間帯、Nシステムで使用車種を割り出そうにも、2本の幹線道路に挟まれたこの場所では、困難を極める仕事だ。

「ちょっと、煙草を吸ってくる」

 島崎は席を立ち、喫煙所に向かった。強行犯係の部屋の側、廊下の突き当たりにある非常用扉を開けた。非常階段の踊り場に置かれた灰皿。数年前の全館禁煙に伴い、此処に追いやられた。


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