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昔の恋人
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昔の恋人-13

「冴木さんはすごいよ。ちゃんと周りの雰囲気を見て、気持ちを汲み取って柔らかい方向に持っていくから。
努力は惜しまないし、コツコツ地道にやっていく人だよ。だから里見さんも支えてやりたいって思うんだと思う。」

「もうわかった。帰る。あんな顔見せられたら敵わない。大輔さんに謝っておいて。あと矢代さんにも。一人になりたい。」

そう言うと椎名は静かに席を立ち帰って行った。
俺も自分の勘定を済ませて、3人のいるテーブルに向かう。


「たかちゃん!」

一番に気づいて手を振ってくれたのが由梨さんだった。
矢代の隣に座るとすぐに大輔さんが言った。

「大丈夫か?俺知らずに誘ってホント悪かった。ごめんな」

「いえ、ホントに熱はもう下がっていて。シャワー浴びてすっきりしてたとこだったんです。」

「たかちゃん無理しないようにね!食べたら帰って寝た方がいいよ。」

そう言って由梨さんがメニューを渡してくれる。
何となくお腹いっぱいで、それを断る。
矢代のデザートを少しもらうことにした。

それからは4人で他愛ない話をして盛り上がり、帰りは由梨さんの車で送ってもらった。
別に付き合っているわけじゃない2人だが、何となくあの2人を見ていると理想の2人に思えてきた。



エレベーターの中でふと思ってしまった。

今回は付き合っているわけじゃない。
友達として荷物を置いている家に普通に戻ってきただけだ。

ただ、家には矢代の作ったご飯がある。
支えてくれた矢代がいる。
結局、一目惚れは失敗に終わった。

大輔さんの由梨さんを見る目を思い出した。
俺は、あんな風に人のことを思えるのだろうか。


「…原、笹原??」

矢代が腕を引っ張る。
気付けばもう玄関の前に立っていた。

「笹原ホントごめん。病み上がりなのに…疲れたんでしょ?」

「いや…」

矢代は俺から鍵を奪うとさっさと玄関を開け、中に入るよう促す。
俺は先に入り、リビングの電気をつける。

パタパタと後ろから俺を追い越しテーブルの書類やノートパソコンを片付け始める。
何となく帰って欲しくなくて腕を掴んでしまった。

「な…」

「温かいの飲むか?」

思わず腕を掴んでしまったので、咄嗟に聞いた。

「うん。お茶にしようか?座ってていいよ。私が淹れるよ。」

言われるがままリビングに座る。

お茶が入るまでの間に、テレビを見ながら過ごす。
矢代は書類やパソコンは全て片付け、もう来た時と同じ状態になっていた。


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