えっちなたそがれ-1
電車から見える町並みはたそがれに包まれて過ぎ去っていく。
景色というのはいつも不思議なものだと思う。
車窓から見えるたそがれはその人によって違って見えるのかも知れない。
もの想う人が見れば愛おしく見える。
これから恋人に会いに行く人には眩しく見える。
疲れた人には気だるい夕暮れにしか見えないのかも知れない。
インセンティブのグループ営業というのはやるせない物がある。
何人かのグループを組んで営業に回り、売り上げに応じて報酬が決まる。
自分ひとりでフォローするわけではないので一見心強いかと思えば実際そんなに甘くはない。
うちの作戦はこうだ。
まず女子社員が足掛かりを作り、なんとしても興味を持たせてくる。
先方の興味さえ惹く事ができれば次に男性社員が訪問して、なんとしても商談を成立させてくる。
そんなにうまくはいかないのだ。
実際、５件に４件は男性社員がコケて帰ってくる。
先方が興味を持つのは商品ではなく、女子社員なのだから致し方ないと言えばそれまでだが業績に結びつかない事には私たち全員食べて行けない。
そこで「おまえがもっと商品に魅力を感じさせないからだ」とばかりに責任転嫁される。
冗談じゃないわよ、それはあなたの仕事でしょ？
また私が出向いて行って商談の仕切り直しにこじつけてくる。
なんだか疲れちゃったなぁ、もう…
そう。私はかつて、この街に住んでいた事がある。
たしか十四か十五ぐらいの時まで…
一見した町並みはずいぶん変わって見えるけど、本質的には何も変わっちゃいない。
私だって、あの頃から大人になったように見えるけど、本質的には何も変わっちゃいないのかも知れない。
しばらくすると、停車駅に子供を連れた女の人が乗り込んできた。
四歳か五歳ぐらいの女の子だ。
その時はなにが気になるでもなかったのだけど、車内が混んでくると女の子が気の毒に思えた。
「どうぞ、お座りください。」
若いお母さんは遠慮がちだったけど、疲れを見せている子供を思って
「ありがとうございます。」
私の後に女の子を座らせ、自分はその前でつり革を握りながら子供に顔を寄せて何か話しかけている。
微笑ましい光景に気持ちが少しほわりとした。
私は扉のところに移動して、窓ガラスに身を寄せながら外の過ぎ去る景色を眺めていた。
さつき姉ちゃん！？
いくらか風貌も変わって、母親らしくなっているけど彼女は間違いなくあの頃よく遊んでいたさつき姉ちゃんだった。