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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヒリャルロアド・メイヴ-5

「雨降って地固まる、とはこの事ね」
 呆れながら、フラウは呟いた。
「羨ましいの?」
 ファスティーヌの声に、彼女は苦笑を漏らす。
「少しだけ、ね。あたしじゃあ、彼にあんな顔をさせるのは無理だったから」
 二人は、視線を少し先に注ぐ。
 そこには、向かい合ってお茶を飲む深花とジュリアスがいた。
 話題の男は恋人の一挙手一投足にとろけそうな笑みを浮かべ、じっと彼女を見つめている。
「私も、ジュリアスの事は昔から知ってるけど……」
「完璧に別人よね?」
「もちろんそう思うわ。本命にはあそこまでデレる男だとはねー……」
 引いているようにすら見えるファスティーヌの言葉と態度に、フラウは笑って同意した。
「まぁ彼女が婚約を渋っていたのを承諾してもらったんだから、嬉しいのはよーく分かるけど」
 辛抱強くプロポーズを待ったファスティーヌだけに、その言葉には重みがある。
「……何か視線を感じるんだけど」
 言って深花は、焼き菓子を頬張る。
 卵とバターをたっぷり使ったフィナンシェの味に思わず頬を緩めると、向かいに座ったジュリアスの目が優しく細められた。
「……いつまで見てれば気が済むの?」
「飽きるまで見続けるに決まってんだろ」
 お茶を口に含んでフィナンシェが溶けていくのを楽しんでから、処置なしと判断して深花は首を振った。
「ここまで甘い男だとは思わなかったわ……」
「うるせえ。俺だって、自分がここまで女に甘い男だとは知らなかったんだからな」
 口調はいつも通りだし声は憮然としているが、その顔は緩みっ放しだ。
「……本格的に処置なしね」
 呆れながら、二つ目のフィナンシェに手を伸ばす。
 舌の肥えた王族が食する菓子が出されているから、味は保証付きだ。
「あ、ファスティーヌさんにフラウさん」
 少し離れた場所からこちらを観察している二人に気づいた深花は、振り向いて声をかけた。
「お久しぶり」
 気づかれてしまったなら仕方ないと、二人は傍までやって来る。
「元気そうね」
「彼が、が抜けてます」
 ファスティーヌの声に喧嘩していたのも仲直りしたのもどうせ筒抜けだろうと開き直って、深花は憎まれ口を叩く。
 それを聞いて、ファスティーヌはころころ笑った。
「弟の親友のこんな面が初めて見れて、実に愉快な気分になれているのよ。感謝するわ」
「何しろ、彼がここまで他人に入れ込んでいるのは誰も見た事がなかったものね」
 女二人に好き勝手に言われ、ジュリアスは不機嫌そうに舌打ちした。
「あらお邪魔だったかしら」
 澄まし顔で、ファスティーヌが言う。
「邪魔だからさっ……」
 深花の指先が口許に触れたため、ジュリアスは言葉を切る。
「駄目よ」
 たしなめられるとジュリアスはそっぽを向き、何か言いたそうに唸って黙った。
「……うわあ」
「怒らなかったぁ……」
 指先一つで激しい気性をなだめてしまった手腕に、二人は感心する。
 二人に椅子を勧めつつ、深花は言った。
「あの、ファスティーヌさんにお願いがあるんですけどいいですか?」
「何かしら?」
 椅子に座りながら、ファスティーヌは問い返す。
「ちょっとお茶の事を教えて欲しくって」
 深花はリュクティスのお茶会に招かれた時の事を話した。


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