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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヒリャルロアド・メイヴ-3

「エルヴァース君にとっては私に投げられた事より、ジュリアスに見捨てられかけた事の方がショックでしょうし」
「それは彼の自業自得だよ。兄の役に立ちたいと言う割に、捨てろと言われた主義主張をせめて引っ込めるふりすらできなかったのだから」
 意外と冷たいユートバルトの言葉に、深花は驚く。
 自分は平和と親愛の人間だと言われるが、ユートバルトは仁愛の人間だ。
 その穏やかさは他者に安堵を与え、たやすく自分を信頼させる。
 自分も他人には理解されづらい・見抜かれにくい才を有しているからこそ、彼は深花の能力に関心を抱いているとも言える。
 人の心の襞の中へするりと入り込んでは優しく包んで解きほぐしてしまう彼女の才能は、ユートバルト以上に理解されづらい。
 なぜなら、彼女と接して心の襞に入り込まれた人間は、彼女に心を許した事にすら気づかないのだ。
 気づいていない事を、理解できるはずがない。
「私はジュリアスを友人だと見なしているが、エルヴァースを友人と思ってはいない。多少手厳しくなるのは仕方ない事だと思ってくれないかな?」
 深花の顔色を見て、ユートバルトはそう言う。
「まあ、引っ込められなかったから君に説き伏せられてあの主義は捨てざるを得なくなったわけで……結果オーライではあるな」
 自身の根幹を成していた貴族のプライドが平民に突き崩されてしまったのだからさぞかしショックを受けたろうと思いきや、それを引っ込めた事でずいぶん楽に生きられるとエルヴァースが気づくのに、さほどの時間は要しなかった。
 今では深花を姉上と呼び、すっかり懐いてしまっている。
「……そこまで大公爵家に梃入れしておきながら、ジュリアスを嫌うのも割に合わない話だねえ」
 ため息混じりに、ユートバルトは呟く。
「何だったら、滞在費代わりに……なんて言い訳、通じませんよね?」
「絶対通じないな」
「セイルファウトが発表したという事は、婚約は本決まり。そのうち相当額の支度金を渡されるだろうし、受領してもしなくても婚約が嫌だとごねれば違約金として倍額を捻り出す必要がある……さすがにそれは無理だろう?」
 ユートバルトの言葉に、深花は俯いた。
「……少し冷静に考えるといい。大公爵公子に復帰した彼は、世の女性が羨む結婚相手なのだし」
「いやそれ逆効果」
 ティトーは思わず突っ込んだ。
 確かに地位も名誉も美貌も兼ね備えた男だが、深花はそれ以外の所を見てジュリアスを好きになったのだ。
 彼女の純粋さが仇になって、そちら方面から攻めても深花には全く響かないだろう。
「冷静に考えろ、は賛成だけどな」


 ティトーやユートバルトと別れた深花は、城の蔵書庫でいくつかの本を読んでいた。
 以前に読んでから続きが蔵書庫にしかない稀覯本を読み込みお勉強、という所である。
 ふわ、と後ろから香水が薫った。
「!」
 大公爵家で、何度か嗅いだ事がある。
 行きの馬車でも、向かいに座っていた男が公子の嗜みとして付けていた匂いだ。
 あまり甘くなく、爽やかさを感じる匂い。
「見つけたぞこのアマ」
 言葉とともに、ぐっと肩を掴まれた。
「……」
 深花は反応を返さず、顔を逸らす。
「こっち向けや」
 顎を掴まれそうになったのでその手を振り払い、ますますそっぽを向く。


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