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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヒリャルロアド・メイヴ-10

 翌日。
「えーっと……」
 歓楽街前の住宅街を歩き、深花はその屋敷を見つけ出した。
 初めてお邪魔した時はすっかり日が暮れて周囲があまり見えなかったため、探し当てるのに時間がかかってしまった。
 メナファの住む屋敷。
 あのバタバタした別れの後、ジュリアスの婚約者がどうとか祭り上げられる方に時間を食わされて、非礼を詫びるために訪問するのがこんなに遅くなってしまったのだ。
 敷地に入る前に、深花は自分の格好を見下ろした。
 そんなに変な服装ではない事を確認してから、いざと敷地に足を踏み入れる。
 ドアノッカーを使って、待つ事しばし。
 応対に出て来た執事は、深花を見て狼狽するほど驚いた。
「申し訳ありませんが、奥様は接客中で……お時間がおありでしたら中でお待ちいただければ、奥様もお喜びになられるでしょう」
 仕事中をやんわりと表現され、深花は困惑して眉をひそめる。
「時間は大丈夫ですけど、私が入ったらお邪魔になるんじゃ……」
「いえ、そんな事はございませんよ……どうぞ」
 執事の誘いに乗り、深花は屋敷に足を踏み入れた。
 とりあえず、この前と同じ部屋に通される。
「只今、お茶をお持ちします。好みの茶葉はございますか?」
「あ……先日知人の家でいただいたブレンドがすごく美味しかったんですけど……クィスハウザとセリンを八二の割合で」
「ほう……珍しいブレンドですな。クィスハウザとセリンでしたら、当家にもございます。少々お待ち下さい」
 執事が部屋を出ていってから、深花はため息をついた。
 本当は恋人の元カノの家を訪問するなど、複雑で仕方ない。
 あの時メナファが発した言葉が社交辞令なのは、そういう交渉の経験が乏しい深花にだって分かる。
 それでも、自分が来るべきだと思った。
 心の奥底に潜む感情はあまりにも未熟で幼すぎて、彼女は自分がメナファに嫉妬を抱いている事にすら気づいていなかった。
 今までの人生経験において他者を羨む事などなかった彼女だから、自分が嫉妬しているのが分からないのは仕方ない事と言えば仕方ない事なのだろう。
「!」
 執事が出してくれたお茶を飲みながらぼうっと時間を過ごしていると、廊下を駆けてくる足音が聞こえた。
「深花様!?」
 下着に上物を一枚羽織っただけのあられもない格好をしたメナファが、部屋の出入口に姿を現した。
「まあ、このような所にわざわざ……!」
「お邪魔してます」
 ぺこりと頭を下げると、なにやら感銘を受けたらしい。
「……このような格好で失礼いたしました。着替えて参りますわね」
 出ていってから程なくして、肌がほんのり透ける煽情的な黒のドレスで戻ってきた。
「まず、お噂をお聞きしましたわ。ご婚約、おめでとうございます」
「え……はぁ、ありがとうございます……」
 昨日の話のネタをどこから仕込んだのだろうと訝しみ、深花の返事はあやふやになった。
 確かにメルアェスはあちこちに情報をキャッチするための網を張っているが、城内に張り巡らせたそれを他者に快く貸し出すタイプには見えない。
 メナファ自身も楽しみのために街へ出歩いたり噂をかき集める女には見えないから、情報源は先程彼女が親密にもてなしていた客というのが妥当な所か。
 噂をかき集めるのが好きな女なら、大公爵家のパーティーから漏れ聞いた所かと思うが。
「それで本日は、どのようなご用件でおいでに?」
「あ……」
 深花は訪問の目的を告げ、非礼を詫びた。


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