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『約束のブーケ』
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『約束のブーケ』-21

「修輔、それ…」

「名前を付けたんだ」

気が遠くなるほどの時間。
葛藤して、悩み続けた。
答えを得ることは出来なかった。
なぜならそれを、確かめる術がもうないからだ。
僕が渡したバトンは、途切れてしまったのだから。

そうして明良は一人になった。

僕には何も出来なかった。
支えることも励ますこともできずにただ時間が経ち、悲しみが過ぎ去ってくれることを願った。
でもそれは、自分に言い聞かせていただけのいいわけにすぎなかった。

僕は怖がっていたんだ。
明良にさえ、拒まれてしまうことを恐れていた。
根っこの先まで、僕は自分という人間を知る。
そして、どれだけ自分が彼女を必要としていたのかを知った。
気付いたんだ。

ここで立ち上がらなければ、また後悔することになる。
もう二度と、歩くことさえできない。
そう思った時、迷いは消えていた。

僕は走り出す。
新しく作ったこのバトンに、すべての想いを込めて。

「約束のブーケ」

僕は彼女に言った。

「明良、結婚しよう」

僕は明良の顔を見た。
彼女はいつものように、少し困ったような顔で笑って、静かに答える。

「私、修ちゃんが好きかどうか分からないの」

彼女は首を振って言った。
昔の様に、僕の事を修ちゃんと呼びながら。

「ううん、違う。そういう感情、とっくに通り越してた。一緒にいるのが当たり前だった」

「そっか」

たとえ答えがどんな形であろうと、僕はよかった。
ただ、僕が明良に伝えたかったのだから。

「おかしいね、先生のことは好きって今でもはっきり言えるのに」

「そんなことないよ」

「先生は、私にとって特別な人よ。それは変わらない。変えられないこと」

聡さんはきっと、誰よりも明良のことを愛していたんだ。
そして明良もまた、同じように。
あの時、僕が願った幸せは、確かに実現していた。
とても短い間だけど、確かにあったんだ。

「でもね、先生がいなくなった今、こうも思うの。私がここまでやってこれたのは、全部修ちゃんのおかげなんだって」

明良は目を細めて僕を見た。

「私、甘えてたのかな。たぶん、そう。修ちゃんの傍で心地良さを感じてる自分が許せなかったんだ。勝手だよね。でも、何も出来ない自分が嫌だったの。だから大好きだったけど、上手くならないピアノから離れた」

明良の声は震えていた。
昔の明良は勉強も運動も普通の子だった。
これと言って取り柄のない、悪く言ってしまえば中途半端。
僕はそれを、明良の全てだとは思っていなかった。
他の子には持っていない物を明良はたくさん持っていたからだ。
だけど、明良がそんな自分の事をどう思っていたかなんて、その時の僕には知るよしもなかったんだ。


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