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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヒリャルロアド-9

「あいつ……結局あの主義は修正してやがらねえ」
 あの主義と聞いて、深花は思い出す。
 貴族優先主義。
 自分やフラウをあからさまに格下として差別するそれをジュリアスは嫌い、次に会う時までには何とかしろとエルヴァースに宣告していた。
「……私のために怒ってるの」
 呆気にとられる深花を見て、ジュリアスは歯を剥き出す。
「悪いか?」
 惚れた女を露骨に差別されて、態度だけでも平然としていられるほどクールな性格ではない。
 すぐにはらわたを煮え繰り返らせて相手に殴りかかる方が、よほどジュリアスらしい振る舞いと言える。
 エルヴァースを殴らなかったのは、身内だから一回は勘弁したという理由しかない。
「とりあえず、エルヴァースの事は後回しだ」
 ジュリアスは、とあるドアを開けた。
 眩しい陽射しの溢れるここが、五年前に出奔して以来足を踏み入れていなかったジュリアスの部屋である。
 入って右側に、火の気がない暖炉。
 その前にはテーブルと、正面に二人掛けで左右に一人掛けの椅子。
 暖炉の奥に見えるのが、おそらく寝室に続くドアだろう。
 部屋の左側には、大きな書き物机と本棚が並ぶ。
 こちらの壁には、素振りに使っていたのであろう木刀が架けられていた。
「掃除だけはされてるみたいだな」
 冷えた部屋の温度に身震いし、ジュリアスは廊下に出る。
 すぐに戻ってくると、深花を奥の部屋に導いた。
 そこはやはり、寝室である。
 奥の壁には小さな暖炉がしつらえられ、真ん中には天蓋付きの豪奢なベッドが設置してあった。
 ジュリアスは、造り付けの衣装棚を開けた。
 今の背丈からするとだいぶ小さめの服が、中に架けられている。
「お前にゃいいサイズかもな」
 スペースを空けて自分達のマントをしまうと、ジュリアスは深花を連れて居間に戻った。
 先ほどの小間使いが暖炉の前に屈み込み、突っ込んだ薪に火を着けようと頑張っている。
 小間使いに離れるよう指示を飛ばしたジュリアスは、薪を注視した。
「きゃあっ!?」
 火の気がなかった薪がいきなり赤々と燃え出したため、小間使いが悲鳴を上げる。
「能力の無駄遣いー」
 深花に揶揄されるが、ジュリアスは笑っていなす。
「も、もうすぐお茶をお持ちします。少々お待ち下さいませ」
 小間使いが下がってから、二人は二人掛けの椅子に腰掛ける。
「とうとう来たねえ」
「あーとうとう来た」
 ジュリアスは、深花を抱き寄せた。
「……で、私はどうすればいいの?」
 腕の中で、深花は問う。
「話そのものを聞いてても退屈だしわけが分かんねえのは保証する。日中は自由にしてていい。ただし、夜……いや、夕方か。日暮れまでにはここに戻ってきて、朝まで一緒に過ごしてくれ」
「うん……あなたがそれでいいなら」
「生誕節の間でも、繁華街の店は開いてるはずだ。退屈はしないだろ……暇ならファルマン伯爵家や王城まで遊びに行っても、歓待してくれるだろうし。もちろん家ん中をうろついたってだあれも文句は言わないさ」
 ジュリアスは、抱いた手に力を込める。
「せっかく来てもらったのにほったらかす形になっちまって、悪いな」
 小さく笑って、深花は抱きしめ返す。
「いいよ。どうせ私はする事なんてないしー。ティレットも実家に帰って家族と過ごすとか言ってたしー」
 むくれるふりをする深花の背を軽く叩いてあやしてから、ジュリアスは不意にその顔を覗き込んだ。
「!」
 びくりと震えた深花だが目は逸らさず……まぶたを閉じて顔を上向け、キスをねだってきた。
「……うまいごまかし方を覚えやがって」
 そう言いながらも触れる機会を逃す気はさらさらないのでそれに便乗し、優しく口づける。


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