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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヒリャルロアド-8

 思わずうっとり見とれてしまうような柔らかい微笑みを湛えたその顔は、優しくありながらも冷たく高貴なニュアンスが入り混じっている。
 白いドレスを纏った女性は椅子に座り、膝の上で手を組んだ定番のポーズでこちらを見下ろしていた。
「母だ」
 その呟きに、深花はジュリアスを見上げる。
「弟を産んだ後、体調が思わしくなくてそのまま逝っちまった。人と接するのが好きだったから、こうして肖像画を玄関に飾ってる」
 つまり、肖像画というより遺影である。
「……」
 ジュリアスは目を閉じて頭を下げ、片手で深花の手を握った。
 黙祷、なのだろうか。
 それに気づいた深花は、そっとそれに倣う。
 しばらくして、ジュリアスは目を開けた。
「付き合わせて悪かったな」
「ううん。それよ……」
「お坊ちゃま!?」
 脇の廊下から、小間使いが飛び出てきた。
 制服はないらしく、動きやすい服装である。
「あぁ……皆に知らせて参ります!」
 慌ただしく去っていった小間使いは、男女取り混ぜ大勢を連れて戻ってきた。
「ジュリアス様!」
「お坊ちゃま!」
「お久しぶりです!」
 口々に発せられる言葉は、全てジュリアスを歓迎していた。
「ただいま、みんな」
 まとめて挨拶を返すと、ジュリアスは言った。
「俺の部屋は、すぐに使えるか?」
「もちろんです!」
 間髪を入れない小間使いの答に、ジュリアスはくすりと笑う。
「ならまずは部屋だな。深花、一緒に……彼女は俺の私的な客人だ。『丁重に』扱うように」
 大勢の使用人に押されて輪の外に押し出されてしまった深花へ、ジュリアスは手を差し延べる。
「客人だが、部屋は一緒でいい。それと、親父は家に……」
「どうしたんだ騒がしい!」
 声は、二階から聞こえた。
 上を見ると、階段の前に少年が立っていた。
 漆黒の髪に紅の瞳。
 胸の前で組まれた腕が、苛立ちを示す。
「一体……」
 しゃべりかけた少年は、輪の中心に気がついた。
「久しぶりだな、エルヴァース」
 にっと笑いながら、ジュリアスは深花を引き寄せる。
「あ……兄上!?」
 驚いた表情を貼り付けたジュリアスの弟は、大慌てで階段を下りてきた。
「も……戻られるのでしたら、手紙でも頂ければ歓迎の準備をいたしましたのに……!」
「仰々しいのは嫌いなんだよ。とりあえず、生誕節の間は家にいると思う……こいつと一緒にな」
 ジュリアスが抱いている深花を見て、エルヴァースが固まった。
「……え?」
「先日正式に受諾してもらった。俺の女だ文句があるか?」
「え……」
 受諾『してもらった』というフレーズに、エルヴァースは青ざめた。
 この女が無理矢理に兄の隣を占めたのではなく、逆に兄が懇願したという意味合いなのだ。
 よりによって平民のこの女を、兄が選んだ。
「そんな……」
「エルヴァースく……」
「お館様でしたら、夕食前には戻ると言付けされて外出されましたわ」
「じゃあ、話は明日だな。行くぞ」
 エルヴァースに声をかけようとした深花を引っ張り、ジュリアスは歩き出した。
「ちょっ待っ……!」
「待たねえよ」
 声に苛立ちを感じ取り、深花は歩きながらジュリアスを見上げる。
 その横顔には、憤慨した表情が張り付いていた。


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