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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヒリャルロアド-35

 翌日。
 何となく顔がつやつやしている気がする二人が、朝食を終えた三人の前に姿を現した。
「仲直りできたようだな」
 肩をすくめたセイルファウトの声に、ジュリアスはにっと笑う。
「まあな……エルヴァース」
 仕草で、ジュリアスはエルヴァースを呼んだ。
「……何でしょう?」
 椅子から立ち上がり、エルヴァースは兄の前まで行く。
「身内だから、俺は今まで勘弁してきた。だが、これが最後だ……深花に謝れ。全てはそこからだ」
 言われたエルヴァースは、そっぽを向く。
「嫌です。兄う」
 その横っ面が、いきなり派手な音を立てる。
「金輪際、俺を兄と呼ぶなと言ったはずだ」
 利き手の拳を握り締め、ジュリアスが言った。
「お前は、俺が今一番大切にしたいものを傷つけた。俺にとって、お前はもう弟じゃねえ……それすらも分からないほど耄碌してるのか?」
 その言葉に、リュクティスは唇を噛み締める。
 まだ間に合うと思ったが、とっくに手遅れだったのだ。
 エルヴァースの妻として迎え入れられる前から、伝説と化したこの一族の怒りの深さ・激しさは聞いている。
 今、義兄を支配するのはまさしくその怒りなのだ。
 それを解く事ができるのは義兄自身か、その隣でただびっくりしている彼女しかいない。
「ジュリアス……!」
「黙ってろ」
 深花の声をその一言で押さえ込み、ジュリアスはエルヴァースの胸倉を掴んだ。
「……もういい」
 そして、急に興味が失せたように手を離す。
「俺は相続権を放棄する。お前が跡を継げ」
 場の空気が、その発言で凍り付いた。
「ユートバルトには俺から謝っとく。後はお前が一人で何とかしろ」
「兄う」
 今度は、反対の頬が鳴った。
「俺を兄と呼ぶな」
 両頬を殴打されたエルヴァースは、さすがに黙り込む。
「最初からこうすればよかったな……そうすれば、お前が傷つけられる事もなかったのに」
「ジュリアス……!?」
 信じられないといった風な深花の声に、ジュリアスは苛立ちを覗かせる。
「なんだ、手に入りそうな金が惜しいのか?」
「馬鹿にしないで!」
 かっとして声を荒げてから、深花は首を振る。
「そうじゃない……あなたは何のために家に戻る決心をしたのよ?これじゃ本末転倒……」
「お前のため以外に理由はない。復縁がお前を害するなら、俺は遠慮なく家を捨てる」
 その答に、深花は硬直した。
「……え?」
「たぶんお前には重い話だから、黙ってた。お前を妻に迎える事になったら、何不自由ない暮らしをさせてやりたい。そのために、俺は家に戻る決心をした……俺はお前から友人や家族や平穏な生活を奪った男だ。しかも、無理矢理軍人に仕立ててもいる……せめてもの罪滅ぼしとして、そうしたいと思ったんだ。だから、それがお前を害するなら俺はそれを捨てる」
 この発言に、セイルファウトとジュリアス以外の人間は愕然とした。
「妻って……!?」
「義兄上様……!?」
「そんな……!?」
 三者三様の驚きに、親子は苦笑する。
「ジュリアス。お前、まだプロポーズしていなかったのか?」
「こいつが元いた世界じゃ、恋愛と結婚は割と別問題みたいなんでな。言うと重い話だから伏せてた……もうばらしちまったが」
 ジュリアスの手が、深花の頭を撫でる。
「このまま話が進めば、お前が未来の大公爵夫人だ。重くてびっくりしたろ?」
「……うん」
 むしろ自分を妻にとジュリアスが考えている事に驚いたが、深花は素直に頷く。


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