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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヒリャルロアド-3

「そうでもなきゃ、王妃ともあろう人間がいくらミルカのお前でも会いたいと言われたからってほいほい会うわけがねえんだよ。たぶん王妃は、お前がラタ・パルセウムで受けてきた教育に価値を見出だしてる。お前が受けてきた教育は、貴族令嬢の間でも類を見ないほどの高水準だからな……その代わり、礼儀作法とか社交界に必要なのはまるで駄目だったけど」
 ジュリアスは、いったん言葉を切る。
「踏ん切りがつかなくて十年もぐずぐずしてる息子の尻を叩いて、嘘の噂に甥っ子がどういう反応をするか調べて、なおかつあの騒ぎの中でお前がどれだけ活躍できるのかを、王妃はばっちりテストしたわけだ」
 もう一口ワインを飲んで、ジュリアスはぼやく。
「本っ気で食えない人間だよ、あのオバハンは」
「オバハンって……王妃様に失礼でしょ」
 ジュリアスにはオバハン呼ばわりしても構わない人間なのだろうが、親友の伯母など深花にとっては立派な他人である。
 ましてやそれが国内でも最高に数えられる地位に君臨する女性なら、不敬罪でしょっぴかれても文句は言えないと思うのだが。
「若そうに見えるが、あれで五十近いんだからなー。俺にとっては紛う事なくオバハンだし、別にババア呼ばわりで気分を害するほど若作りしてるわけでもなし。メルアェス自身が俺みたいなガキの言う事なんざぁ全く気にしてねぇの」
 そううそぶいてから、ジュリアスは始源記を覗き込んだ。
 深花が読み込んでいたのは、本当に始まりの部分……一つの世界がリオ・ゼネルヴァとダェル・ナタルに分かれて相争う事になった経緯だった。
「古語が難しいなら、俺が読んでやろうか?」
 あまりはかどっていない事を考慮し、ジュリアスはそう言った。
 生誕節の間、カゼルリャ基地は居住区と選ばれてしまった不運な人間を残してほぼ閉鎖される。
 自分達も大公爵邸に行く事になっているし、始源記を返すなら王都に行くそのタイミングが一番だろう。
「うん。お願い」
 好意の申し出に甘え、深花は書物をジュリアスの方へ押した。
 ジュリアスはワインを入れていたコップを置き、片手を深花の肩に回す。
「あ……」
 肩を抱かれた深花はもじもじと恥じらったが、すぐに身を任せた。
 近づいた体からは、洗浄料の花の香りがほのかに香る。
 甘く爽やかなそれは寄り添った肢体の柔らかさとあいまって、ジュリアスをいたく満足させた。
 さっさと同棲を開始してよかったと、心の底から思う。
 深花の知的好奇心が満足したなら、早く寝室に引き取ってこの体を抱きながら眠りたい。
「遥かなる昔、二つが一つであった頃。二つの部族が……」
 すらすらと読み上げていく低い声に聴き入りながら、深花はその情景を想像していった……。


 世界が一つで精霊は今より少し身近な存在で、国はなく全ては混沌としていた頃。
 異なる主張を持つ二つの部族が、いがみ合っていた。
 一方が是とする事柄を、一方が否定する。
 そんな事が積み重なって、やがて二つは決裂した。
 一つの部族が、もう一つの部族の人間を殺してしまったのだ。
 報復しあう血みどろの抗争に発展するのを防ぐため、精霊達は世界を二つに分けた。
 そうやって、共通項はあれど主義主張の異なる二つの世界が生まれた。
 両者のいがみ合いはひどくなるばかりで、収束の兆しは全く見えない。


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