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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヒリャルロアド-24

 こちらを罵倒しながら泣きそうな表情をしているエルヴァースを見て、どう反応していいのやら分からなかったのもある。
「あなたは兄上にふさわしくない!!僕はあなたなんか認めない!!」
 俯いたエルヴァースの顔から、何かが滴り落ちる。
「どうして……あなたなんだ……!」
 深花は、エルヴァースが何が言いたいのかを理解した。
「エルヴァース君」
 胸倉を掴む手を外しながら、深花は言う。
「私がジュリアスにふさわしくないのは、私が一番よく分かってると思うよ」
 エルヴァースは顔を上げ、彼女を見る。
「でもね、彼はこんな私でも好きだと言ってくれた。あなたがどんなに私を認めたくなくても、それは揺らがない事実だよ」
 掴まれて乱れた胸元を整えながら、深花は言う。
「彼の立場を考えるといつかは私と別れてどこかの貴族令嬢と結婚するんだろうけど、それまでは彼を支えていきたいと思ってる。それすらも、あなたは嫌なの?」
 この女を妻にしたいとはジュリアスが一方的に考えているだけで、彼女自身はお互いを好き合っていてもいつかは別れるつもりなのか。
 エルヴァースの中で、悪魔が囁いた。
「……嫌だ。僕は、あなたを認めない……出ていけよ、今すぐに!!」


「深花ー?」
 父の書斎を覗いても、やはり深花はいなかった。
「ったく、どこに行ったんだ?」
 日が沈み始めたこの時間になっても姿が見えず、約束を違えた事のない女がそれを破り始めているという事実にジュリアスはいらいらし始めていた。
 昼間は抱かれて思い切り甘やかされてしまったから、夜には抱き締めて思い切り甘やかしてやろうと思っていたのに。
 恥ずかしがってもじもじしたり逃げようとしてもがいたり、照れて真っ赤になる顔を想像しただけで彼の口許は綻んだ。
 もしかして一足先に食堂へ行ったかと考え、ジュリアスは食堂に足を向ける。
 食事には既に父とリュクティスがいて、食前酒を嗜みながら談笑していた。
「おや、お嬢さんはどうした?」
 その台詞から、父は行方を知らないと分かる。
「リュクティス、深花を知らないか?」
 問われたリュクティスは、首を振った。
「いいえ、存じませんわ」
 自分の予想通りあっという間に深花に手なずけられてしまった女も、やはり知らないらしい。
「姿が見えないんだ。日暮れには家にいてくれって言ったら、ちゃんと承諾してくれたのに……」
 不安そうに眉を寄せる様を見て、二人は顔を見合わせる。
 そんなジュリアスの後ろから、エルヴァースが姿を現した。
「どうしました兄上?」
「エルヴァース……!」
 その表情を見て、ジュリアスは息を飲む。
 弟は何かを知っていると、直感的に思った。
「……深花をどこにやった?」
 エルヴァースは脇をすり抜け、自分の席に腰を下ろす。
「追い出しましたよ」
 さらりと言われたその一言に、場の空気が凍り付いた。
「何……だと……?」
「彼女は兄上にふさわしくありません」
 エルヴァースは、肩をすくめた。
「リュクティス。君は自分を含めて兄上を支えられるだけの度量のある貴族令嬢はいないと断言したけれど、度量がないならふさわしくなれるだけの教育をすればいいだけだ。あんな平民より兄上にふさわしい令嬢はいくらでもいる」
「……そうか」
 怒り狂っているかと思いきや、そう呟いたジュリアスの声は平静だった。
「それがお前の答か」
「そうです。僕はあくまでも反対します……ましてや彼女を妻に迎えたいだなんて、寝言としか思えない」
「分かった」
 ジュリアスは、踵を返した。
「お前は彼女の素性を知り、どれだけの努力を重ねてこの世界に馴染んだのかを理解せず、ただ平民だから深花を追い出した……そういう事だな?」
 突発したいさかいに狼狽したリュクティスは、義父を見た。
 セイルファウトはただ、二人を交互に見ている。
「兄上、どちらへ?」
 歩き出したジュリアスへ、エルヴァースが声をかけた。
「……金輪際、俺を兄と呼ぶな」
「ジュリアス」
 今度は、セイルファウトが呼び止める。
 ジュリアスは足を止め、父親を一瞥した。
「私は寝ずに待っている。いいな?」
「……必ず、連れ戻してくる」



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