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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヒリャルロアド-23

 深花と別れて自室からセイルファウトの部屋に戻る途中で、ジュリアスはエルヴァースと行き違った。
 家のトップが出奔息子とじっくり話し合っているので家政やら来客のあしらいやらは全て、今はエルヴァースとリュクティスが請け負っている。
「あ、兄上……」
「よう」
 軽い挨拶を聞いて、エルヴァースは怪訝な顔をする。
「ずいぶん機嫌がいいですね」
「そうか?」
 自分ではそうと気づかないようだが、エルヴァースには兄が今にも鼻歌でも歌い出しそうなくらい上機嫌に見えた。
 あの女が厨房に入って出奔前のジュリアスが好んで食べていたキッシュを作っていた事と昼食後のこの上機嫌との関連は、否定できない。
 のんびりしているように見えて全く油断のできない女だと、エルヴァースはいらつきを覚えた。
 まず、基本的におとなしい。
 家の中の移動は父の書斎とジュリアスの私室とを往復するくらいしかなく、家族が揃う夕食の席にもあまり参加したがってはいない。
 俺と離れる気かとジュリアスに怒られて、ようやく遠慮しながら一緒に夕食を摂っている。
 馴染まない場所に顔を出す時は、必ずジュリアス絡みだ。
 ジュリアスが喜ぶ、ジュリアスのためになる。
 声高ではないが行動でそう主張されれば、エルヴァースとしては客人の身分でやたらにうろうろするなと彼女をむやみに咎められない。
 それが彼には、付け入る隙を与えないよう注意を払っているようにしか見えなかった。
 次に、服装。
 訪問時は見映えのしない旅着と清潔感はあるが地味な服を持ち込んでいたのに、亡母の普段着を一度身に着けた後は一旦外出し、既製品ではあるが高級感のある服を買ってきてそれを着ている。
 家にいるなら最低でもこれくらいのレベルの服装を心掛けるようにと父の示したガイドラインをきちんと読み取ったのも驚きだし、買ってきた服も平民とは思えないほどにセンスがいい。
「……エルヴァース」
 暗くなっていく弟の表情を見咎めて、ジュリアスは声をかけた。
 エルヴァースの考えている事は、手に取るように分かる。
「お前がリュクティスを選んだように、俺は深花を選んだ。この家に生まれた男として、その意味は分かるな?」
「……え」
 エルヴァースは、硬直した。
 リュクティス……自分の妻を、選んだように。
 妻を、選んだように。
 妻。
「あ、兄上……まさか……」
 かすれた声で、エルヴァースは呟く。
「あいつがその気になってくれさえすれば、俺は彼女を妻に迎える事に躊躇わない。いいな?」
 ジュリアスは、腕を組んだ。
「これは、最後通牒だ。家に来てからこの方、お前の言動は見てきたが……お前がまだあいつを拒否するなら、俺もそろそろお前を腹心に据える事を考え直す時期にきていると思わなきゃならねえ」
 深花を受け入れるか、拒否するか。
 拒否するならば、今まで兄の腹心となるために注いできた努力の全てを放棄しろと当人から言われてしまったのだ。
「よく考えろ」
 固まっているエルヴァースの脇をすり抜け、ジュリアスは歩いていってしまった。
 そしてタイミングの悪い事に、深花が姿を現す。
「あ、エルヴァース君……」
 睨むだけで反応を返さないエルヴァースを見て、深花は首をかしげる。
「ジュリアスがどっちに行ったのか知らない?聞き忘れた事があって……きゃっ!?」
 いきなり胸倉を掴まれ、深花は悲鳴を上げる。
「どうしてあなたなんだ!?」
 エルヴァースは、叫び声を叩き付けていた。
「どうして!?平民にすぎないあなたがどうしてあそこまで兄上の心を奪える!?」
 胸倉を掴む手に、力を込める。
「体か!?この体で兄上をたらし込んだのか!?そういえば、家に来た早々に首を真っ赤にしてたもんな……さぞかし具合のいい下半身をしてるんだろうなぁ、この売女!!」
 いきなり罵られ、事態を理解できない深花は硬直してしまった。


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