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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヒリャルロアド-22

「お前……」
 柄にもなく、頬に朱が差している。
 初めて見るその表情に、深花は思わずその顔をまじまじと見てしまった。
「……俺が照れたら悪いか」
「へー……照れてるんだぁ?」
 短気で他人をすぐ怒鳴る男が照れておとなしくなっているという事実に、深花の口許は綻んだ。
「……女に甘えた事なんてないからな」
 説明されると小さく呟くその姿すら恥ずかしそうに見えて、口許の綻びが大きくなってしまう。
「……メナファさん以外にお付き合いした女の人っていないの?」
 素朴な疑問に、ジュリアスは横目で深花の顔を見る。
「……聞きたいのか?」
 ジュリアスとしては、過去の女の話を聞かされる深花の立場がないと思うのだが。
「ん?単にそういう女の人がいたのに甘えた事がないのかなぁって思っただけ」
 何となくジュリアスの頭を撫でながら、深花は言う。
 性格は好みが分かれるだろうが、この外見だ。
 その気になれば、いくらでも女を引っ掛けられるだろう。
「何人か、いたけどな……」
 ため息混じりに、ジュリアスは言う。
「全員駄目だった。俺が自分の立場を打ち明けたら、みぃんな自分の未来は大公爵当主夫人だと思って目の色を変えやがる。そういうのに嫌気がさして女は当分いらないかと決心した時に、お前が出てきたんだよ」
 くすりと、笑みが漏れる。
「どうせお前も俺の立場を知ったら態度を変えるんだろうなぁって思ったら、説明するのが面倒でさ。フラウに押し付けちまった……ら、お前は全然態度変わんねぇんだもんな。あれは衝撃的だった」
 その衝撃が恋に変わるのも、熟成されて表に出てくるのも、ジュリアスとしてはあっという間だった。
「そういうわけで、恥ずかしながらこうして甘えられるくらいにじっくり付き合う女はお前が初めてだ」
 いきなり自分の胸に男の頭を引き寄せるような大胆な女も初めてだが、そこは黙っておく事にした。
「そうかぁ、私が初めてかぁ」
 嬉しそうに笑っている深花の気分を害するメリットはまるでないし、頬で感じる柔らかな胸の感触を今しばらくは堪能したい。
 しかし……この様子からして、彼女は気づいていないようだ。
 自分と付き合った女は、結婚を望む。
 彼女が望むなら、そうなるのも構わない。
 なぜなら、自分が深花から家族を奪ってしまったから。
 自分が絶縁を解除する気になったのは偏に、深花のためである。
 吐露するには重いしまだ先の話ではあるが、もしもそうなったら彼女に何不自由ない暮らしをさせてやりたいと思うからだ。
「……とりあえず、止めてくんねえか?」
 今だに頭をよしよしされているので、ジュリアスはそう言った。
「嫌?」
 不快ではないが、こうして年下の女に甘やかされているのは割と恥ずかしい。
「でも、元気出たでしょ?」
「……まあな」
 その点については、感謝してもしきれない。
 特に今日はぐったりしていたので、優しく甘やかされた事もあいまって自分の復調には驚きを禁じ得なかった。
 肯定の返事を聞いて、深花は微笑む。
「元気になってくれて、よかった」



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