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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヒリャルロアド-20

「お姉様?」
 首をかしげて問い掛けられ、深花は我に返る。
「え……ええ。お茶会なんて、ユートバルト殿下の婚約騒ぎの時に王妃様のティータイムにお邪魔した時くらいのものしかなくって」
 その言葉に、今度はリュクティスが固まった。
「王妃様の……お茶会?」
 かすれた声を、リュクティスが発する。
 貴族の令嬢である彼女は、メルアェスが催す私的なお茶会の意味をよく知っていた。
 簡潔に言えば王妃がこれと見込んだ人物と面会したい時に開かれる、非公式な謁見の場である。
 しかもこの台詞からして、彼女は先日の王子の婚約騒ぎに深く関わっていたらしい。
 ジュリアスとティトーという、彼女と近しい男性二人の立場を考えると巻き込まれるのは致し方ない。
 しかしそれだけでは、王妃が面会したがる理由にはならない。
 事の次第を裏返せば、彼女に王族が興味を示すだけの能力が備わっているという事だ。
 どうして義兄がよりによって平民のこの女を選んだのかわけが分からないのでとりあえず話し合ってみようとお茶会を設けたリュクティスだが、初っ端からとんでもない先制パンチを食らってしまった。
「失礼」
 思わず呆然としてしまった失態を詫びたリュクティスは、気を取り直してお茶の入ったカップを持った。
 自分好みの濃いめに淹れられたお茶を口に含み、何とか落ち着きを取り戻そうとする。
 目の前の女はのほほんとした様子で、小間使いに勧められるままサンドイッチを頬張り始めた。
「あ、これおいひぃ」
 燻製の鳥肉とチーズを巻いたサンドイッチを食べて頬を綻ばせている様は実に平和そうで、リュクティスの疑念や警戒心をやすやすと剥ぎ取っていってしまう。
 テーブルマナーも申し分なく、食べ方も飲み方もそつがない。
 リュクティスもサンドイッチをつまみながら、深花とのおしゃべりに興じるのだった……。


 夢中で腰を打ち付けていたエルヴァースが、動きを止めた。
「っ……!」
 一声呻き、リュクティスの中で果てる。
 覆いかぶさって荒い息をついていたが、しばらくして身を起こすと妻に口づける。
「……それで、どうだった?」
 彼女が深花を招いてお茶会を開いた事は知っているので、後戯を施しながらエルヴァースは尋ねた。
「どう、とは何がですの?」
 事後に特有のけだるい声で、リュクティスは問い返した。
「あの女の事だ」
「あの女とは失礼ですわ」
 ぴしゃりと言い返され、エルヴァースは言葉に詰まる。
「少なくともわたくしは、お姉様の人と成りをつぶさに観察いたしました。その上で、断言いたします」
 夫の頬を優しく撫でてから、リュクティスは起き上がった。
「あの方は、義兄上様がお側に置かれるだけの器量を備えてらっしゃいます。むしろ、わたくしを含め義兄上様に釣り合うだけの肩書きを持つ貴族令嬢では、義兄上様を支える度量に不足しております」
 リュクティスまでも陥落されたと知り、エルヴァースは硬直した。
 使用人達も概ね好意的に彼女を受け入れているのが、不気味ですらある。
「……お湯を使わせていただきますわ」
 エルヴァースに考える時間を与えようと、リュクティスは優しく言ってベッドから降りた。
 確かに彼女はエルヴァースと同じく、貴族優先主義を標榜している。
 だがそれは一部の無能な貴族を除き、ほとんどの者が優先されるに足るだけの義務を果たしているからだ。
 刮目すべき才のある人間を、彼女は否定しない。
 平民であればそこでいきなりシャットアウトしてしまうエルヴァースとは、根幹の主張が異なる。
 今夜、彼女はそれを痛感した。
 エルヴァースがもう少し寛容な目で世間を見てくれればいいのに、と思う。



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