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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヒリャルロアド-18

「坊ちゃまからのお言付けがございましてね。買い物に出るなら店員に舐められないように、立派な馬を使えとの事でさぁ」
 確かに、いるだけでその厩舎の格が上がるような黒星クラスの名馬に跨がっていれば、箔はつくだろう。
 風格も何もない自分が黒星に乗っていたら、ちんどん屋よりも目立つだろうが。
「それにこいつは相当癇が強くてね。他の馬がけっこう怯えちまうんだよ……お嬢さんが連れ出してくれたら、俺が個人的に感謝するよ」
 そこまで言われてしまったら、無下に断るのも気が引ける。
「分かりました」
 深花は手綱を掴み、黒星の首を優しく叩いた。
「今日はしばらく、買い物に付き合ってちょうだいね」
 ふざけて噛み付こうとする鼻面を指で弾くと、黒星に飛び乗る。
「それじゃ、失礼します」


 ざぶん、と音を立ててジュリアスの体が浴槽に滑り込んだ。
「お疲れ様ー」
 深花は浴槽の縁から手を伸ばし、筋肉の強張った肩を優しくマッサージし始める。
「実のある話はできた?」
「……お前は俺を何だと思ってるんだ」
 憮然とした声に、深花は即答する。
「破壊の申し子、短気王」
「おい」
「冗談よ」
 笑った深花は、手を肩から首へと引き上げる。
 二人は今、浴室にいた。
 父親との長い対話を終えて疲労したジュリアスをねぎらうべく、体を揉みほぐしてあげようとしている所なのである。
「それにしても、あなたの体って……」
 褒め言葉として、深花はそう呟く。
 とにかく、凄い。
 ごく薄い脂肪の下には、入念に鍛え上げた頑丈かつしなやかさを備えた極上の筋肉が張り詰めている。
 筋肉というならザッフェレルやヴェルヒドの方がよほど筋肉達磨だが、彼らの体躯にしなやかさという言葉は存在しない。
 この柔軟性が、ジュリアスの強さの根幹なのだ。
「ぅお……」
 疲労回復のツボを力いっぱい押してやるとかなり効いたのか、ジュリアスが声を漏らす。
「お前も入れよ」
 マッサージがあらかた終わる頃、ジュリアスがそんな事を言い出した。
「え……」
 ためらう深花の服に、ジュリアスは手をかける。
「俺は朝まで離れる気はない」
 きっぱり申し渡され、深花は観念する。
 その場で服を脱ぐと、ジュリアスの隣に滑り込んだ。
 待ち兼ねたように手が伸びてきて体を捕らえ、唇が塞がれる。
「……マッサージの礼だ。体洗ってやるよ」
 しばらくキスを堪能してから、ジュリアスは言った。
「あ、ちょ……」
 抵抗する間もなく体を反転させられ、背中にタオルが当てられた。
「……体洗ってもらうのなんて、入院生活以来だね」
 ジュリアスにかかったストレスを考えると、本人のやりたいようにやらせるのが一番だろう。
 そう思った深花は体の力を抜き、リラックスした。
「あー?そういえばそうか……何だか、ずいぶん昔みたいだけど」
 くすりと、ジュリアスが笑う。
 首から肩、背中へと絶妙な力加減で洗い立てる手際は実に慣れたものだ。
「あの時は毎日が天国のような地獄のような……」
「え、私の世話ってそんなに大変だったの?」
 慌てふためく深花の体を反転させ、正面を向かせる。
「そういう関係になる前の人間が自分を信頼して体を預けてくれる。こいつはまぁ、嬉しい事だ……信用されてるって思えるしな」
 ふっと、その表情が曇る。
「けどな、惚れた女がこっちを信頼しきって素っ裸を披露してくれる状況はかーなーりつらいんだよ。信頼を裏切りたくはないけれど、見ないわけにもいかない。医局の看護士はもちろん、フラウにもティトーにも世話を譲りたくない。矛盾だらけの状況を誰かに愚痴るわけにもいかない」
 なるほど、と深花は納得した。
 そう考えると、酷な状況にジュリアスを置いていたわけだ。


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