投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

異界幻想の最初へ 異界幻想 237 異界幻想 239 異界幻想の最後へ

異界幻想ゼヴ・ヒリャルロアド-12

「実は王の下命により、君の身辺は調査させてもらった。ああ、誤解しないで欲しい……身分の低い女性は息子にふさわしくないなんてくだらない事を言い出す気は毛頭ない。ただ、どのような親類がいるのかをね」
「親類?」
 怯えと警戒が、驚きに取って代わる。
「まさかいないと思っていたのかね?君の祖母、イリャスクルネには姉が一人と弟が三人いた……残念ながら姉はイリャスクルネ失踪後に離縁されたが、弟三人は何とか結婚し、それぞれに子供をもうけている。そして君のいとこにあたる人間が二人いる」
 セイルファウトは、言葉を切った。
「ただし」
「ただし?」
 天涯孤独と思っていたのに、係累がいた。
 すがるような眼差しに、大公爵の胸は痛む。
「会わない方がいい、が私の結論だ」
「え……」
 セイルファウトは、深花を見つめる。
 穏やかな顔つきに、慈愛を感じる顔立ち。
 裏切り者と糾弾される祖母とよく似た顔が、じっと自分を見つめ返す。
「彼らは変節者の縁戚として、あまり幸福とは言えない人生を送っている。君と会ったら、その元を取ろうとするだろう……寄生されたくなければ、会わない方がいい」
 それでも彼は、オブラートに包んで警告した。
 優しさは、彼女を血迷わせる。
 その迷いはおそらくジュリアスを巻き込み、なにがしかのトラブルに発展してしまうだろう。
「そう、ですか……」
 呟いてうつむく深花の姿は、何も悪くないセイルファウトにすら罪悪感を抱かせた。
「……付き合わせて悪かったね。私が話したいのはここまでだ」
 大公爵は、笑ってみせる。
「君から私に、聞きたい事はあるかな?」
「私が、ですか?」
 眉を寄せて考え込む様子に、セイルファウトはこっそり笑みを漏らした。
 この五年、全く音沙汰のなかった息子が突如連れ帰ってきた女。
 絶縁を宣言していた男が復縁する気になった主要因は、見ているだけで面白い。
 思考が顔に出すぎるきらいはあるが、漏れ聞くエピソードを統合すれば下手な貴族令嬢よりジュリアスに相応しい相手だと思う。
 特に先日、女の身でありながら臆する事なくダェル・ナタルへ乗り込んで任務を達成してきた事は評価するべきだ。
 作戦に参加した四人がそれぞれにまとめたレポートは、セイルファウトも興味深く読ませてもらった。
 今までにない長期間の滞在。
 触れてきた人間層や文化圏。
 何よりも、『敵』に関する情報の新鮮さ。
 読みやすく仕上げられたそれを見る限り、頭の働きも悪くない。
 特に、行きの穴が崩れて全員がばらばらに吹き飛ばされるという手痛い事態をリカバリーできたのは、彼女の存在あってこそだろう。
「あの……おいやでなければ、奥様の事をお聞かせ願えませんか?」
 いかにも恐る恐る、といった調子で深花は切り出した。
「どういう方だったのか……知りたいんです」
 その言い回しから、故人である事は既に知っているのだとセイルファウトは気づく。
 たぶん、ジュリアスから聞いたのだろう。
「構わないとも。そうだな……」
 ゆっくりと、セイルファウトは妻の事を思い出していった……。



異界幻想の最初へ 異界幻想 237 異界幻想 239 異界幻想の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前