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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-93

第三六話 《変後暦四二四年三月六日》


 「……外周部とは言え、これが一国の首都…か」
 ベルゼビュールのコクピット。モニタを眺めるエリックの発した声が、響いた。
今。エリックは最終的な作戦説明を受け終わり、ベルゼビュールに搭乗したまま、アルファ達と共に突入兼補給用トレーラーに揺られている。モニタには、トレーラーの全方位カメラが映し出す映像が表示されていた。街は、無事な建物を探す事が困難な程に破壊されている。昼間だというのに、動くものはベルゼビュールやアルファの乗る新M型ワーカー『バフォール』と、その他三機のアーゼンを搭載したトレーラーのみ。
遠く霞んで見える中心部の高層ビル郡は、雪でも降ったかのように白くなっている。
現在エリック達が居る場所は、ジュマリアの首都『レアム』の外周部。
移動し始めた無人機の群れはレアムへと辿り着き、二昼夜の内に中心部を占領したという。
最初の方はレアムに駐屯していたナビア軍が奮戦していたらしいが、ある程度中心部に近づいた無人機の群れから白い粉(特殊ナノマシンと推測されている)が散布されて戦局は変わった。白い粉を吸引した人間は呼吸器系に異常を来し、駐屯軍はまともな戦闘もできずに全滅したという。避難できなかった多数の民間人も、生存は絶望的だろう。
今回の作戦目標は、中心部に存在すると思しき制御装置を発見し、破壊する事。
変幻自在なナノマシン兵器だけにどんな形をとっているかも判らないので、怪しい部分一帯を爆破する予定だ。以前エリックが救ったトレーラーに積まれていたのは、一定時間ナノマシンに悪影響を及ぼす装置。そしてナノマシンのサンプルだという。
実行部隊の編成は、バフォール、ベルゼビュール、そしてアーゼンが三機。それにサポート用のトレーラーがついている。数よりも突破力を重視した編成だ。
エリック達が突入する南部隊を援護するため、西と東からワーカーの大部隊が攻撃をしかけ、制御装置破壊用の第二部隊が北側から侵攻する手筈となっている。
『予想戦闘地域まで、あと十五分です』
 通信に乗った、無機質なアリシアの声。サポート用トレーラーの運転手なのだ。
一頃無人兵器の周りに起こっていた電波障害は、いつの間にか消えていた。といっても電波障害が起こっていたところで、トレーラーと格納スペースの間に問題がある筈もないが。
「……そろそろか……」
 戦場は中央部が想定されており、ビル街での戦闘が予想される。
エリックは機体状況をサブモニタに表示する。オールグリーン…つまりは正常だ。
腕の故障も、エリックが今朝ベルゼビュールに乗り込んだ時には直っていた。
さすがはナビアの最先端技術、といった所だろうか。
格納スペースには新たにボムが補充されており、状態としては万全と言えた。
『エリックさん……遅れましたが、ベルゼビュールの機能拡張について説明です』
 サブモニタの表示を戻したエリックに、個人回線でアリシアが話しかけてくる。
「機能拡張?」
 初耳だった。今さっき状態を表示した時も、特に変わった武装の追加等は無かった筈だ。
『はい…ベルゼビュールを修理する過程で、発見された事です』
 前置き気味に一拍置いて、アリシアは続ける。
『ベルゼビュールに搭載されている、従来の火薬による爆発力で推力を生み出すブースターとは全く異なる発想の、『イオンブースター』という武装が一つ。これは吸気した空気中の分子をイオンに分解し、それを噴射する事で推力を得るもののようです』
 よく判らないが大層なもののようだ、とエリックはなんとなく思う。しかし。
「ベルゼビュールにはブースタトリガーのようなものは一切無いぞ?」
 火薬式ブースタを使用する際には、レバーグローブの小指部分を操作する事で反応するトリガーを使用する場合が殆どだ。ブースタが搭載されている機体にはこのトリガーがあり、動かしてみれば直ぐに判る筈なのだ。
『イオンブースターは操作方法が特殊なようで、モニタの横にあるカバーの下……一番上の黄色いボタンを押すと背面部に格納されているノズルが出現。二番目の青いボタンを押す事で発動。三番目の赤いボタンで停止、とあります』
 エリックは言葉に従って、モニタ横にあるカバーを外し、三個のボタンを確認する。
以前ベルゼビュールに乗り込んだ時、触らなかったボタンだ。
『機能テストをしていないので、発動させる事でどの程度の推力が出るのかは不明です。実戦で調整して下さい』
「……努力はする」
 テストくらいさせて欲しかったと思うが、エリック個人の事情で作戦を遅らせる事などできる筈もなく、仕方なかったのだろうと思う。


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