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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-55

「……嫌われたわねぇ……まぁ、私は自分が大好きだからいいけど」
 エリックについて走り出したローラが、横に並んで言う。
「殺人狂の自分がか?」
 何処か嘲るような口調で、エリックは言葉を放つ。
しかしローラは怒りもせず、むしろ笑みさえ浮かべて見せる。上機嫌だ。
「そうね…社会や他人には認められなくても、私にとっては必要。本当に大切なものの為なら、人の命だって何だって犠牲にできるわ…そしてそれが出来るのは、それくらい大切なものがあるって事だもの。何も無い人生より、万倍素敵だわ」
 走りながら、ローラは語る。エリックはその言葉に、自分のクリスに対する気持を彷彿とさせるものを感じたが、それでも、やはりローラの同列には並びたくなかった。
「はいはい、そりゃ良かったな」
 だから、投げやりな調子で答えた。
「判ってくれるとは思ってないわ」
 ローラも何処か軽い調子で答え、二人は口を噤む。しかし、沈黙も長くは続かない。
「そういえば、何処に向かってるのよ?」
 今更、といった感じの事を聞いてくるローラ。
「格納庫だ。そういうお前は?」
 エリックは短く答えると、お返しとばかりに疑問をぶつけてみる。
「あたしはシヴとは別行動よ。SS区画はシヴに任せて、内部まで入り込んだ敵担当」
「…そういえば、アイツ等はなんだ…?銃弾を受けても倒れなかったが…」
 エリックは思い出したように訪ねる。先ほどの敵兵は、明らかにおかしかった。
「あいつら?ああ、なんか変なのよ。痛みとか感じないらしくて、身体が動く限り動き続けるの。倒すんなら頭を吹き飛ばすか、首筋を断つか、手足全部を使えなくするか。心臓に当てても少しの間は動くから注意が必要ね」
 さらりとローラは言ったが、エリックにしてみれば耳を疑いたくなるような事実だ。
兵士を、何かの薬漬けにでもしたのかもしれない。そしてそんな事をされるとしたら…
「リクリスの実験兵…か…?」
 ぼそりと、エリックは呟く。なんとなく、消えたカイルの事を思い出す。
(今回の作戦に加わっているなんて事が無ければいいが……)
「エリック、前よ」
 考え事に沈みかけたエリックの思考を、ローラの鋭い一声が呼び戻す。
気付けば前方の通路に、敵兵が五人程固まっていた。
幸い二人に背を向けた状態であったため、反応が遅れている。
エリックが立ち止まって銃を構えた時には、既にローラが敵兵達に突っ込んでいた。
エリック達に気付いた敵兵達は、接近しているローラに銃口を向けた。
前衛(?)二人が、引き金を引く。しかし、その瞬間敵兵二人の構えていたマシンガンが暴発。ローラが、投げナイフで銃口を塞いでいたのだ。銃を当てていた胸に、ぱっと赤い血の華が咲く。
優れた身体能力と戦闘センス、そして投擲も含めたナイフさばき。それこそ、ローラが傭兵として未だ生き残っている所以である。
残りの三人も発砲態勢に入った途端、ローラは壁を駆け上がるようにして、上から五人を強襲する。通常ありえないその動きに、敵兵たちは引き金を引く事もできない。その隙を逃さずローラはエリックの方を振り向いていた敵兵たちの背後に着地し、両手に持ったナイフで、後ろに居た三人の内二人のうなじを切り裂く。これで、実質上ローラに攻撃できるのは残り一人。その一人は、遅れて突っ込んできたエリックによって、頭を撃ち抜かれる。戦闘終了。血飛沫に塗れて、ローラは再び恍惚の表情を浮かべる。


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