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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-48

第十七話 《変後暦四二四年二月二二日》

 「……今日も昨日と同じように、?2が操縦する『レイアーゼ』との共同訓練を行うでゴザル。双方、準備は良いでゴザルか?」
 モニタ類の光で淡く照らし出されたコクピット内に、カゲトラの声が響く。コクピット内に居るのはエリックである。初めて『ベルゼビュール』と出会って(?)から四日。エリックは只管にベルゼビュールに乗り込み、機体を使いこなそうとしていた。そしてそんなエリックに、カゲトラも多忙の中に暇を見つけては協力してくれている。
最初はエルと同列であるLタイプとの訓練を望んだのだが、どうやらLタイプはファーストモデルのエル以外、一体たりとも精製に成功しなかったらしい。
『エルは、極めて特異な存在でゴザルよ。同じ条件で何度試しても、途中で組織が崩壊してしまうのでゴザル』と、カゲトラは言っていた。
そんな事を頭の片隅から追い払い、エリックはとりあえず目の前の訓練に集中する。
「はい、大丈夫です」
「機体良好。問題無し」
 両名の返事に応え、テスト場のゲートがゆっくりと開いてゆく。エリックの駆るベルゼビュールの白銀の装甲が日に照らされ、光を放つ。武装は左手にシールド、右手にライフルというオーソドックスなスタイルである。
テスト場を挟んだ反対側のゲート内には、クリスの後進たる少女、X2の駆るレイアーゼが待機している筈だ。もっとも、障害物の関係で視認はできないが。
「それでは始めるでゴザルよ………5、4、3……」
 始まったカゲトラのカウントダウン。それに呼応して、ベルゼビュールは発進に備える。
「…1、始めっ!」
 声と同時に、ベルゼビュールは飛び出した。量産機とは比べ物にならないスピードに、体がシートへと押し付けられる。衝撃緩和能力も高いので縦揺れはそこまで感じないが(といっても訓練されていなければかなりツラいのだが)、進行方向からのGは避けられない。
そのGによる圧迫感をむしろ愉しみつつ、エリックはベルゼビュールを走らせる。
軽やかな動作感覚が、昔クリスと共に乗った彼女の機体『ミネルグ』を思い出させた。
何処と無く、似ているのだ。錯覚かもしれないが、少なくともエリックはそう思っている。
「っと……!」
 視界の端に写ったレイアーゼを認め、エリックはベルゼビュールを障害物の陰へと躍り込ませ、片膝をついて身を隠した。無理な体勢ではあるが、ワーカーの基本動作の一つである。そしてシールドに装備されたコ・カメラを陰からそっと覗かせる。
カメラに回線を接続されたサブ・ディスプレイは、レイアーゼの姿を映し出す事はない。
と、レイアーゼの走る音に続いて、火薬ブースタの音。
「………!?」
 途端に日が蔭るのを感じ、エリックは慌てて機体を横へと滑らせた。無理な動きに、火花を上げて膝の装甲が削れた。だがこれくらいなら何の支障も無い筈だ。
一瞬遅れて。銃撃音と共に、先ほどまでベルゼビュールの居た場所が赤く染まる。レイアーゼの撃ち込んだペイント弾によるものだ。これは訓練なので、当然実弾は使わない。
恐らくX2はベルゼビュールを発見し、障害物を乗り越える道を選択したのだろう。障害物はブーストジャンプでギリギリ時間をかけずに乗り越えられる高さだ。
「チッ!」
 ライフルを持った腕を振り上げる勢いで回転しながら、膝をついていた機体を立ちあがらせた。エリックの技術とベルゼビュールの性能あっての荒業である。
一瞬遅れて、地面に刻まれる赤い塗料。着地する間際のレイアーゼによるものだ。
一回転して立ち上がったベルゼビュールのライフルは、着地の衝撃で滑りながらもベルゼビュールを射界に捉えるレイアーゼに向けられている。
こうなってはもう、後は早く撃った者勝ちだ。
「……っっ!」
同時に、二機の銃が火を噴いた。


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