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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-31

「これが…この手が、2つめの御質問に対する答えです。貴方の記憶を読み、封じられている記憶は早くに処理しておかなければ危険だと判断致しました。」
 彼女は穏やかに言い、その白い手をかざして見せた。
「記憶素粒子…という言葉があります。」
 愕然とするエリックに向けて、ルキスは言葉を続ける。
「光と同じように、人の記憶、そして思考も、粒子から成り立っているという考えの下。ルゥンサイトの研究者方は、研究に取り組んでこられました。そして…そうですね…一九〇年ほど前に、一人の科学者の方がその解明に成功なさったのです。人間は自分で感知する事のできない、フェロモン等を出している。それと同じように、記憶素粒子というものを周りに放出しているのだと、その科学者の方は発表しました。」
 とうとうと、ルキスは語る。まるで御伽話をしているかのように。
「放出された記憶素粒子は、物や自分の体内、対外に付着します。丁度犬がマーキングによって、自分のデータを周りに残しているのと同じように。そしてこれからが、これを解明した方の最も偉大な所なのですが…彼はその記憶素粒子を読み取る手段を見つけたのです。そしてそれを、当時平行して進んでいた『人間の完全生成』の作成と組み合わせました…。」
 穏やかな笑顔は絶やさず、それでいて内に侘しさを内包しつつ、彼女は話す。
「人間の完全生成とは、従来のクローンのような製法ではなく、科学の力のみで、他人の遺伝子も女性の母胎も借りず、人間を作り出す事です。つまり、世界のいかなる人間とも接触の無い人間を作り出す事、と言えます。…いえ、人に似せて人に作られた人に在らざる人、と言った方が正しいかもしれませんね。そしてその為に、当時のルゥンサイトの前科学力を駆使し、様々な実験を『それ』に試みたのです。長寿。不老。抵抗力。先程も言った、記憶素粒子の読み取りに使う感覚器。数え上げればキリが無いほどに……」
ふとエリックに背を向けながらルキスは続け、そしておもむろに、壁へと歩み寄った。
「全く新しい人類を…作りたかったのかも知れません。それは神をも恐れぬ行為だと知りつつも、彼等は試みを止める事はできなかったのです。」
 壁に描かれた文様を、指でなぞる。ルキスの眼帯に描かれているのと、同じものだ。
彼女の手が記憶を読み取るのならば、彼女はそこにどんな記憶を見ているのだろうか。
「しかし彼らは一方で、信心深い信徒でもありました。ですから、彼らは自らの行為を正当化するために、自身の創造物を『神の声を聞くもの』としたのです。まるで、自分たちの研究は神の教えに反していないと、そう釈明するかのように。」
 そこまで言って。ルキスは壁の文様に指をつけたまま、俯いた。
「……ここまでお聞きになれば、もうお判りとは思いますが……」
 振り返って、ルキスは言葉を区切る。その顔には、いつもと同じような微笑が浮かんでいた。
「………」
 エリックは、黙って頷いた。
不思議と、突拍子も無い話なのに、嘘だとは思わなかった。
「そうして造られたのが、私…ルキス=バラクです。」
 言い終わり、ルキスはおかしそうに笑った。
「ふふふ………今この事を知っているのは、当時の研究者達を統括していた『元老院』の後継の方々と、貴方くらいのものですよ。私を監視している親衛隊の方々も知りません。それどころか今言った方以外は、仮面をつけていない私をルキス=バラクだと判別する事すらできないのです。まぁ、防衛上の問題でもある訳なのですけれどね。」
 本当におかしそうに、彼女は続けた。いたずらっぽく、と言って良いかもしれない。
「こうして人に秘密を話した事なんて、何年振りでしょうか……本当に…」


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