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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-12

第四話 《変後暦四二四年二月一日》


 「……………」
 ルゥンサイトの首都オジュテーの中央施設・ラティネアの廊下。エリックは傭兵仲間達と連れ立って歩きながら、何故今こうしてるのかを考えていた。


少し時間を遡る。
「待機……?」
隊長はラティネアに到着したトレーラーに仲間を残し、局員と話をしていた。
研究員とのコンタクトは直接取れないので、局員に物資受取の旨を伝えていたのだが、局員の方から待機願いが出されたのだ。
「はい。申し訳ありませんが、準備の方に時間がかかっていまして。今朝起きたクーデターの事後処理などで、作業が遅れてしまっているのです。後半日から一日ほどかかります。」
 局員が、穏やかな口調で言う。
余談だが、ルゥンサイトは宗教国である。ルヴィン教を国教とし、教皇が政治を執り行なっているのだ。よって国風として掲げるのは、ルヴィン教の基本理念である『博愛』。
このルゥンサイトの役人達に奉仕の精神が活きている事は、世界的に有名だ。
もっとも、それが世界を意識したみせかけである可能性もあるのだが。
「……クーデターが起こっていたなど、初耳だ。」
「はい。未明に起こって明け方には解決されましたからね。」
その妙に慣れた感じの話し方に、隊長は眉をひそめた。
「話を聞く限り、あまり大事に感じないんだが…」
 そもそもクーデターとは、国がひっくり返るかもしれないという一大事なのだ。
加えて、解決までの時間も異常に短い。
局員が冷静を装っているのかも知れないが、そういった雰囲気も感じられない。
「よくあるんですよ。やはり政治体制を不満に思っていらっしゃる方も多いようで。四年に一回位は、クーデターを起こす方が居らっしゃいますから。なので、そういう事に対する対策は万全なのです。」
相変わらずにこやかだが、話の内容は穏やかではない。
まぁ、クーデターとは言っても殆どが他国からの干渉があってのものなのだと推測できる。
今や世界で一番大きいとも言える国だ。狙われる事も多かろう。
「…随分と不安定な国家だな…」
 隊長のその言葉も、納得できるところである。
「いえ、そうでもありませんよ。クーデターが成功した事は一度もありませんし、ルキス様の人望もあって、国民の皆さんはいつも教皇派ですから。」
 ルキス=バラクとは、現教皇である。その圧倒的なカリスマは世界中に知られており、仮面と長いローブという出で立ちが特徴的な、年齢性別一切謎の人物である。
実は既に即位から百五十年余りが経っているのだが、退位の話はとんと聞かない。
よってルキス=バラクという人物は裏で何代か移り変わっているというのが世界の定説だ。
注意。ルゥンサイト国民の中にはこの考えを聞いて激怒するものも居る。
教皇というのはルヴィン教徒にとって神聖なものである。冒すべからず。
「……そういう事でも無いと思うがな…」
 外部からのものにせよなんにせよ、クーデターが変前の国際競技大会並みの周期で起こっているなら、十分不安定な国なのである。
…ルゥンサイトはかつて、超大国ゼニオンからの侵攻を乗り切った事がある。
その影には、クーデター等で培われた軍事的経験が活きていたのかも知れない。
「まぁ、話は判った…それじゃ、ご苦労さん。」
 隊長が局員に一言言う。
「あなたに神の愛を。」
 ルヴィン教の決まり文句を言って一礼すると、局員はゆらりと隊長に背中を向け、去っていった。


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