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野生の悪魔が現れたっ
【ファンタジー 官能小説】

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野生の悪魔が現れたっB-8

 ***

(催眠術……。或いは催淫術……だとすれば、淫魔……)

 漸く屋上にてお目当ての人物を見つけた彼女は、男に女が跨がって腰を振っている様子を眺めている。
 しかし、セピアの広がる此方の世界に彼女の嬌声は響いてこない。
 内心を聞くことは天魔族には容易いことだが、人間と関わる必要のない彼女にはそれが出来ない。
 澪のように、拠り代(よりしろ)となる人物の内心を聞くことしか出来ないのだった。

(淫魔だと話がややこしい……。人間に魔力を与えて得などないだろう。やはり悪魔と考えるのが自然。与えた力は催眠術、か……)

 修一が横になり、彼に跨がって腰を振る女。
 その直ぐ傍に舞い降りた彼女は、何かを探すように辺りを窺った。
 聖なる力の気配を消す術……消光陣を自らに施しているため、辺りには仕事に勤しんでいる天族や魔族の姿があった。
 しかし数は少ない。
 “此方の世界”の秩序を守る彼女は、制裁を加えるだけの力を持っている。
 従って、好き好んで彼女の傍に近付こうとする天魔族は滅多にいない。
 それどころか、気配を感じれば距離を取るのである。
 故に、消光陣なるものを自らに張る必要があるのだった。

「ん?」

 そこに、一人の淫魔がふらふらと飛んできた。
 彼女にとって滅多にないことだ。
 その淫魔は屋上で交わる二人の様子を眺め、肩を落とした。

「え〜っ! ゴム着いてるしぃ〜」

「ゴム? 魂の循環を妨げるというアレのことか?」

「うんっ。授業でそんなこと言ってた」

 淫魔は得意げに言い、思い出したかのようにまた肩を落とす。

「貴様は私が怖くないのか?」

「そりゃそうだよ。悪いことしてないもん」

 何も返さず、彼女はその淫魔に視線を走らせる。
 まだ仕事をし始めて間もないらしい。
 ここ、日本という国は性交時に避妊具を使う方が多い。
 そして人間に目を付けるのは効率が悪い。
 人間以外の生命に魂の循環を促した方が利口だ。
 その点から考えても、愚行を働く可能性は低い。
 大抵“あっちの世界”の事をある程度知った者が、出来心でするものなのだ。

「う〜ん……ラブホテルってとこ行ってみよっかなぁ……」

 淫魔はぶつぶつ言いながら、何処かへ飛んでいった。



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