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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第二部』-8

第四話・激動
 《変後暦四二三年十月十四日》


 簡易基地集会所。
「この簡易基地に向かって、敵部隊が進軍しているとの報告を受けた。」
 臨時に開かれた集会。責任者の第一声は、これだった。
ざわめきは無い。しかし戦慄した空気が、場を包む。
「しかしここは近いうちに行う作戦の拠点となる為、撤退は許されない。必ず死守だ。」
 読み上げるように状況を告げると、責任者は続ける。
「敵到達予定時刻は一時間半後。各員臨戦態勢をとり、防護位置に付け。以上。」
 その言葉で、集会は終わった。
「出撃か……」
 皆が散っていく中で、エリックは呟いていた。
緊張はする。恐怖もある。だが、上に認められるチャンスでもある。
早く今の状況から抜け出してしまいたいエリックとしては、好都合である。
「うし!行くか!!」
 一声気合を入れると、エリックは皆に少し遅れてハンガーに向かっていった。

「……冗談じゃないぞ…なんだあれ……」
小隊長に続いて配置に付いたエリックは、ペール?のコクピットの中で毒づいた。
上に認められるチャンス等と言っている場合ではない。
丘に囲まれる形で立っている簡易基地。その近くの小高い丘に登った、彼らが見たもの。
それは地平線の向こうから迫り来る、三十台近くの大型トレーラーであった。
恐らく一台に五体程のワーカーが積まれている筈だ。
つまり、おおよそ百五十機のワーカーがこちらに向かっている事になる。
そしてこの簡易基地に格納されているワーカーは六十機。
大体にして、一つの簡易基地を落とすのに、この数は異常である。
ちなみにジュマリアの現行主力機『セラム』の機体性能は、ナビアの『ペール?』の1.5倍と言われている。
しかも基地の周りは、丘以外平坦な地形だ。待ち伏せや奇襲はできない。
その上数まで四倍近く上回られているとなると、不利を通り越して絶望的である。
「はぁ……短かったな…俺の人生……」
 ぽそりと、エリックは呟く。
逃げ出したい気持ちは山々だが、背後には督戦隊のトレーラー。
戦場を監視する彼らの前で敵前逃亡など図れば、あっという間に反逆者である。
そうなれば良くて軍法会議、悪ければその場で射殺である。
「……やるしかないという事だ。」
 まるでエリックの心を見透かしたように、小隊長から通信が入る。
「はい……そうですね……」
短く答え、エリックは遠くのトレーラー達を見据える。
トレーラーは次々と止まり、中から格納されていたワーカー達が姿を現し始める。
ジュマリアカラーであるネイビーブルーに、地面が塗りつぶされていく。
「……全員、生きて帰るぞ。」
そんなエリックら小隊の面々に、小隊長が通信を入れる。
『了解!』
 受ける隊員達の声が、唱和した。
「クリスとの約束もあるしな…………ん?」
 クリスの顔を思い浮かべながら呟くエリックは何気なく基地に眼を移し、ふとあるものが目に入った。
「アレは……」
基地近くに止まっている、アルファ達が乗ってきたトレーラー。
そこから、一台のワーカーが姿を現していた。
鉛色に鈍く輝く、他とは明らかに違う曲線的ですらりとしたデザイン。
右手にナックルタイプのシールド、左手にはマシンガンを持っている。
恐らくあれがアリシアの言っていたアルファの乗る新型機体、『アーゼン』なのだろう。
「アルファ……?」
 トレーラーから現われたワーカーは物凄いスピードで丘を駆け上がると、エリックが乗るペール?の隣にやって来る。
エリックだと意識しての事では無いだろうが、エリックは少し驚いてしまう。
そんなエリックに構わず、アーゼンと思しきワーカーは敵の方を向く。
…そしてそのまま、猛スピードで走り出した。
「お、おい!?……くそ、馬鹿野郎!」
『突撃ィィィイイ!!』
 まっすぐ敵の群れへと突っ込んでいくアーゼンに、思わずエリックが毒づいたその時。
突撃の合図が下った。
「おおぉぉぉおおおおおおお!!」
 雄叫びを上げ、潮の如くナビアのワーカー全部隊が突撃を開始する。
その向かう先は、それすらも飲み込みそうなジュマリアの大部隊。
その先端で。鉛色の新型ワーカーは、その超スピードであっという間に敵の射程距離まで飛び込んでいた。エリックの駆るペール?はかなり後方だ。


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