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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第二部』-23

大岩の影までは、約五キロ。
奇しくも、シイル襲撃の際に、だだっ広い荒野を突っ切る予定だった距離と同じだ。
といっても、今回は単体行動の上に地雷などの危険も無い為、全速力で走れる。
エリックほどの腕だと、かかる時間は恐らく六分強。
そんな行程を、エリックは三分程前から進んでいた。
いつの間にか、西日が差している。夕日を背にして、エリックは進む。
「間に合ってくれ………!」
 念じつつ、ひたすらにペダルを動かす。
右、左、右、左、右、左……もはや無意識に動かせる足。それが今、じれったい。
「もっと早く…もっと早く……!」
 巨大な五つの縦長岩達が、見えてきた。あの麓に、クリスは居る筈だ。
と、エリックの駆るペール?の前に、二機のペール?が現れた。恐らく、追撃隊だ。
やや前方を進むそれに、エリックは気にせず近付いていく。
「待て!……エリック・マーディアスだな?国家反逆罪で……」
 距離が三百まで近付いた時。エリックは通信で呼び止められる。
その途端。
エリックは素早く腕を振り上げながら接近し、狙いを付けてライフルを掃射する。
狙いを付けて射撃まで、その間三秒弱。躊躇いは無い。
「な……!!」
数発外れるものの、残りはコクピットへ直撃、装甲をべこりと凹ませて、一機倒れた。
セラムよりも装甲の薄いペール?は、やはり脆い。
相手もこれは予想していなかったらしく、残りの一体は反応できなかった。
その隙に、更に接近したエリック機は、コクピットのやや下へと銃弾を撃ち込む。
バランサーリングを破損した機体は、左右に大きくブレながら、倒れる。
そして通り際、相手の銃を持つ腕を踏みつけて、潰して行く。
「悪いな……お前等に構ってる時間、ないんだよ……」
 呟いて、短くコクピットを潰した機体のパイロットの冥福を祈る。
そのまま、正面に見える縦長岩に向かって走った。

近付いてくる縦長岩の麓。複数の動く物体が見えた。
恐らく、クリスと追撃隊が戦っているのだろう。
更に走るにつれ、闘いの様子が詳しく見えて来る。
クリスと思しき動きのペール?、それと戦闘しているペール?が三機。
周りには無数のペール?が転がっていて、クリス機らしき機体は、既に片腕が無かった。
そして一機、ペール?が倒れる。残りは二機。
エリックはやっとライフルの有効射程に飛び込み、銃を連射しながら更に突進する。
走りながら連射されるライフルは殆ど外れたが、距離四百あたりで、一発掠った。
そこで二機のうち片方が、エリックに標的を変更する。だが。
既に狙いを付けていたエリック機と、そこで初めて狙いを付け始めた敵機。
勝負は決まっていた。
立ち止まったエリック機の射撃を受け、敵機はあっけなく倒された。
そしてその間にも、クリス機がまた一体仕留める。
もう近くに敵影は無い。…戦闘は、終わった。
「クリス………大丈夫か…?…良かった……間に合って………」
動きを止めたクリス機に通信をいれながら、エリックは近付く。
「エリック………?」
呆然としたように、クリスが呟いた。
そして突然、クリス機の腕が上がり、エリック機に狙いを定める。
「クリス……!?」
 思わぬ事態に、困惑するエリック。
「………もういい…もうだれもいらない……みんな…みんな……しんじゃえっっ!」
 幼子のようなクリスの叫びと共に、エリック機に向けられたライフルが火を吹いた。


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