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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第二部』-21

廊下。
「くそ、クリスの奴どうしたんだ!?」
 エリックはぼやきながら、見失ってしまったクリスを探していた。
どうやら他の追っ手も皆撒かれたらしく、現在所在は確認できていない。
撒かれた奴等は大体怪我をして、医務室行きになっている。
「なんだってあんな………」
 再びエリックがぼやきかけた時。爆音が基地内にこだました。
『非常事態発生、非常事態発生、ワーカー格納庫にてワーカーが一機奪われた。犯人はワーカーを使い逃亡中。パイロットは直ちに追撃に向かえ。繰り返す……』
館内放送が、同じ内容を繰り返し告げる。
「クリスか!?」
 それ以外、考えられない。
「何とか、連絡が取れないか……?」
 エリックは考え、そして閃いた。以前知った、クリス回線番号がある。
急いで通信機を取り出すと回線番号を押す。通信範囲内ならば、通じる筈だ。
コール音。まだ通信可能範囲内に居る証拠だ。
「………だれ…?」
 クリスの、声。ただ、いつもの気丈さは無く、怯える小動物の様に頼りなげだ。
「俺だ、エリックだ。…クリス、どうしたんだよ?大丈夫か?」
 とりあえず通信が通じた事にほっとしつつ、エリックは聞いてみる。
クリスの様子が、気がかりだった。エリックは通信機を耳に当て、注意深く言葉を待つ。
「…あんたなの……?………たすけて、たすけて………あたし…もう、どうしていいかわかんないよ……」
 まるで子供のような、クリスの声が聞こえる。勝気な態度は、すっかり消えていた。
確かに先ほどのクリスには驚かされた。恐怖を感じたと言っても良い。だが……
守ってやりたい。エリックは、今、そう思った。
「判った。すぐそっちに行く。どこに居る?」
 決意が固まった。国を捨てる、決意が。
「………………」
「どうして良いか判らないなら…俺と一緒に、考えてみよう。な?」
「…そこから北東五キロの、縦長岩……。……その三番目で…まってるから……」
「…わかった。そこで待ってろよ、すぐ行く。」
「…うん……」
その言葉と共に、通信が切れた。
北東五キロ、縦長岩。
大岩の影というのは、変前のビルが朽ちて巨大な縦長の岩みたいになっている所だ。恐らくそこなら見付からない。というより、そんな所までは普通捜索されない。
「よし……待ってろよ、クリス……」
呟いて、エリックは格納庫へ向かって走り出す。
それを、少し後ろの方でミーシャが静かに見ていたのだった。

格納庫へと向かう途中の廊下。
担架に乗せられたり歩いたりして、医務室へ向かう怪我人達とすれ違う。
容態は様々で、軽傷の者から重傷の者、そして…もう死んでるんじゃないかという者。
恐らくクリスがやった。人を傷つけるクリスを想像できないだけに、衝撃的だ。
忘れていたが、クリスは『風神』なのだ。一度戦場に赴けば、多くの敵を葬る。

 格納庫までもう少し。
前方に、曲がり角。アレさえ曲がれば、格納庫へは直ぐだ。
格納庫にさえ着けば、ワーカーで乗り出すのは簡単だろう。
「……」
「動くな!」
 いっそうスピードを上げて走り出そうとしたその時。
後ろからの声と共に、エリックは自分に銃が向けられるのを、感じた。
思わず、足を止める。
「エリック・マーディアス上等兵。お前を国家反逆容疑で連行する。」
 冷たい声が聞こえた。


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