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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』-9

「そうだな……それじゃあ、なんで軍に入ったんだ?」
「え……?」
 何気なく言った言葉に、いきなり沈黙が降りた。
「あ、いや、話しづらい事なら別に言わなくていいぞ?」
「いや、いいの。ただ単に、あたしはそうゆう家系に生まれたの。それだけ。」
「親父さんが軍の将校だったとかか?」
「まぁ、そんな所。生まれた時から……ううん、その前から決まってた事だから……」
 通信機から聞こえる声が、寂しげに沈む。
そんな空気を変えたくて、エリックは言葉をつむぐ。
「お、俺はさ。兵隊になるのが子供の頃からの夢だった。それでパイロットになって、最高に格好良いナビアのエースになりたかったんだ。」
「子供らしいね。今はどうなの?」
 やや声のトーンを戻しつつ、クリスが聞く。
「今は……今も、同じだ。カイルとも約束したしな。」
「カイル?」
 聞き慣れない名前に、クリスは思わず聞き返す。
「ああ、訓練学校からの親友でな。とんでもなく軽い奴なんだ。」
 カイルの事を思い出し、ふと笑みがこぼれてしまう。
しかし次の瞬間には、無事でないかもしれない事を思い出して、気持ちが沈む。
「……今日は、陽動部隊の方に配属された。俺のもう一人の親友と一緒にな。」
 知らず、責めるような口調になってしまっていた。
別に謝罪の言葉を求めてでは無い。本当につい、そうなってしまっただけだ。
「そう…………ごめん……」
 暗く沈んだクリスの言葉が、エリックの心に刺さる。
きつい言い方になってしまった事を、エリックは本気で悔やんだ。
「い、いいんだよ。考えてみれば、あの部隊は雷神にやられたんであって、あんたがやったわけじゃ無いんだからな。俺の方こそ、すまなかった。」
「……雷神…?」
謝罪するエリックに、訝るようなクリスの声が重なる。
「…雷神は……一昨年に敵に撃破されて行方知れずよ。」
「え?」
 思わぬクリスの言葉に、エリックは思わず聞き返してしまう。
「だが、確かに今日の戦闘には雷神が居たと……」
「雷神じゃないわ。今日居たのはジュマリアで雷神と並んで、風神って呼ばれてるパイロットよ。尤も、雷神には数段劣るけど。」
知らなかった事実に、エリックは驚きを隠せなかった
「ふ、風神?……全然知らなかった……あの噂、デマじゃなかったのか……」
「まぁ、もともと雷神みたく前線に立つようなパイロットじゃなくて、後方支援が主だったからね。敵国のあんた達が知らなくても無理はないわ。もっとも、雷神の名が知れ渡ったのは、派手な降伏勧告の所為だけど。」
 淡々としたクリスの言葉はエリックにとって驚きの連続だったが、その声の奥に何かの感情が隠されていると気付いた彼には、話の内容よりそちらが気になってしまっていた。
「まぁ、あんたには関係無い話よね……」
 その言葉を最後に通信機は沈黙し、ただノイズを発するだけとなった。
またもや気まずくなってしまった空気に、焦り始めるエリック。
その時、階下への階段がエリックの前方に現れたのであった。
「地下の、更に地下へと続く扉……?」
 呟いたエリックの言葉が、老朽化した廊下の壁に響いた。


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