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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』-16

第八話・好転
 《変後暦四二三年四月?日》


 「………はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 クリスが、長い長いため息を吐いた。
結局あの後二人で色々考えたが、一向に脱出の方法はみつからなかったのだ。
試しにコンピューターのコントロールパネルを適当に触ってみたが、やはり動かなかった。
「ったく、この役立たずコンピューターが!」
 苛立ち紛れに、エリックがガツンとコントロールパネルに拳を叩きつけた。
その瞬間。
        ガ!ガリガリガリガリガリ!
けたたましい音が部屋に響き渡る。
「な、なんだ!?」
 驚いて部屋を見渡すエリック。しかし部屋には何も変化は無い。
「コンピューターが…起動してる……まさか、まだバッテリーが残ってたの?」
 訝るように言うクリスの言葉に、エリックは巨大なディスプレイへと目を向ける。
しかし、ディスプレイには何も映っているようには見えない。
いや…よく見れば右下に小さく、なんだか判らない言葉が表示されていた。
「叩いて動くとは……壊れたテレビか…?」
 エリックが思わずそう洩らした瞬間。音が止んだ。
と同時にいきなり部屋の電気が点き、この広い制御室を隅々まで照らし出す。
ディスプレイには見た事も無いような文字が羅列された後、何かの入力画面が表示された。
「…どうする?」
「あたしに任せなさい。」
 どこをどうしてよいものかと思案げなエリックを押しのけ、クリスがコントロールパネルの前に立つ。
「お、おい。判るのか?」
 訊ねるエリックに構わず、クリスはパネル上のキーを叩いてゆく。
「これ、以前見た文献にあった変前の文字と同じものみたい。解読できるわ。」
 以前見ただけではとても無理だろうとエリックは言いたくなったが、クリスは何の不安も無さそうに堂々とキーを叩く。自分の知識に一片の淀みも無いかのように。
実際ディスプレイの表示はクリスが正しい事を主張せんが如く、動き続ける。
「お前、凄すぎるぞ……敵わんな……」
 エリックはクリスの圧倒的な能力に、舌を巻いた。
元々敵わないとは思っていたものの、ここまでくると尊敬を通り越して呆然としてしまう。
「気にする事はないわ。あたしに敵うのなんて、エルくらいよ。……それに、あたしは『天才』だもの……」
 最後の方は何故か自嘲気味に言うと、クリスはそのまま作業に没頭する。
ディスプレイを見ると、既にエリックの理解が及ばない世界が広がっていた。
「エル……ねぇ…」
 再びもやもやしてきた胸の内に、ディスプレイを眺めるエリックは眉をしかめる。
何故だかその名前を聞くたびに、気分が悪くなる。
それが嫉妬である事を、本当はエリックも気付いていた。ただ、認めたくないだけだ。
死んでしまった人間に嫉妬するなど、エリックの道徳観とプライドが許さないのである。
しかしそれにしても、ここまでの能力を持つクリスに敵いうるエルというのはいかなる人物だったのか、興味は尽きない所だ。
エル……頼りなくて直ぐ泣いて、それでもクリスと同等の能力を持つという。聞けば聞くほど判らなくなってしまう人物である。


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