Crusade Ⅱ-4
突然、大尉の首にかけられていた足がどけられる。大尉の喉は浮かび上がる数々の疑問ではなく、まず何より空気を求めて暴れ狂った。新鮮な空気を取り入れたことで窒息死の危険は過ぎ去ったが、大尉自身の窮地が過ぎ去ったわけではない。金髪の女が大尉の兜を剥ぎとり、首と甲冑の間に指を引っ掛け軽々と大尉の体を起こし、自らの顔に近づけた。
「な、何をするつもりだ」
その顔を見て、悲鳴を上げなかった大尉の度胸は大したものであろう。金髪の女の微笑は、未だ顔に張り付いたままだ。だがその目はまるで空洞のように何も映していない。彼女が目と鼻の先にある大尉の目を覗くその瞳は、大尉を人ともなんとも思っていないような、物を見るような無感動な暗闇が灯っていたのだ。だがそれでも、顔だけはにこりと、完璧な微笑を作っている。
妖しい。それはなんとも妖しい笑みだ。赤髪の女が持つ明かりで仄かに浮かぶこの女の顔は、まさに見れば石化するメドゥーサのごとき妖しさと、それ故に持つ美しさがあった。
「何を、ですか。決まっているじゃあないですか。貴方の体に聞くことがあるのよ」
その瞳を覗いた大尉の命運は、決まっていた。