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是奈でゲンキッ!
【コメディ その他小説】

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是奈でゲンキッ!-3

 なまじ足が速い。運動神経が良い。加えて可愛い……ってのは置いとくとしても。今日ばかりは、そんな自分の才能と言うか、能力が恨めしく思った事は、なかったであろう。
 どうやら是奈は、クラス一の運動神経の良さを買われて、打倒A組! やつ等に栄光の『氷坂下り最速のタイトルホルダー』を渡すな計画(彩霞が後からつけたプロジェクト名)の戦士として抜擢(ばってき)されるや否や、そんな事には全くもって興味など無かった本人の意思には関わらず、無理矢理に市外の『丘の上公園』ぐんだりまで連れてこられて、いよいよ問題の『氷坂』自転車下りに挑戦させられる破目に、なってしまったようである。
 そんな是奈の無謀とも言える挑戦を一目みようと、どうやら噂を聞きつけたクラスメイトやら、友達やら、下校途中の暇な生徒やらが、坂に駆けつけてギャラリーを始めると。
 いよいよ持って是奈も覚悟を決めざるを得ないらしい。何度も何度も唾を飲み込んで、どうやら彼女の緊張も頂点に達して来た様である。

 そんな是奈の耳元で、チーム監督とでも言いたげな彩霞が、冷静な口調で囁く。
「いいか是奈。全力で加速するのは150メートル地点までだ。それ以上加速を続けると、勢いが付き過ぎて止まれなくなるから注意しろぉ」
 そんな事を言いながら、遥か彼方のゴール地点を指差して見せたりする。
「ねえっ、もし止まれなかったらどうなっちゃうの?」
 そんな事は考えたくは無かったが。彩霞の隣で突然口を挟んで来た真由美が、素朴ではあるが、是奈にとっても一番気になっていた事を、彩霞に質問すると。それを隣で聞いていた是奈の不安も、一気に高まった様子である。彼女も目を見開いて、彩霞の返答に聞き耳を立てて居た。
「あっはぁ〜ん、心配するな。止まれなくってもその先は田んぼだ! この時期、稲穂が伸びてクッションに成ってくれるだろうから、落っこちても死にはしないさぁ。まあ〜泥だらけには成るだろうがなぁ、はっはぁー!」
 はっはぁーじゃねーだろ! はっはーじゃ!
 是奈は、人事だと思ってのん気に笑い転げる彩霞の横顔を睨みつけながら。絶対この人、いつか仕返ししてやる! と心に誓っていた様子である。
「ねえ……やっぱり止めない。車が来たりしたら危ないしぃ…… そっ、それにご近所にも迷惑なんじゃぁ」
 健全な女子校生であれば、誰だってそう考えるのが当然であろう。是奈は改めて、自分だったら良いのよ! 別に、敵を目の前にして逃げた臆病者だとか、負け犬のレッテルを貼られようとも、構わないから。 ……とにかく、こんな危険な事は止めにして、とっとと帰って、アニメの再放送でも見ましょうよっ! と、訴えては見るものの。
「いいかぁ、何度も言うようだけど、ゴール手前3本目の電柱が ”K”点だからなっ! そこを越えたら思いっきりブレーキを掛けろよ! 出ないと死ぬぞ!!」
 と、彩霞は相変わらず、勝手気ままな指示を出すばかりである。
「死ぬってなによっ! K点ってなにっ! さっき言ってた事と違うやんっ!!」
 なにやら、彩霞のいい加減なアドバイスに是奈も青筋を立てたようだったが。
 言われて彩霞。
「平気、平気ぃ! 学年一の運動神経の持ち主のお前なら、楽勝に決まってるって! いざとなったら、ママチャリなんか放り出して、飛び降りちまえばいいだろう」
 そう言って、是奈の背中を ”ビシバシッ”と、お気楽にも叩き捲くっていた。
 なんとも無責任である。


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