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そんなこと言わないで
【同性愛♀ 官能小説】

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全一章-8

 舞衣ちゃんを正常に戻すには何日かかることだろうと、自信などないまま、ただ夢中で動き回っていただけでした。<鬼軍曹になってやる>とまで決心したのに、舞衣ちゃんはあっけないほど素直に私の懐の中にいました。下手に考えず、自然体が良かったのかもしれませんが、何より舞衣ちゃん自身が、元々素直で優しい子だったのです。
 あの人を刺すような目の光りが消えると、その時想像した以上の魅惑的な目を持った女の子でした。というのも、自分に降りかかった突然の事故のせいで、溌剌とした若さが消え、高校生とは思えない、10才も年をとった女性のような色っぽさが見えるからでした。やつれで痩けた頬や目の窪みは、恋煩いの女性のような愁いを宿していて、私は、舞衣ちゃんに対する憐憫の情より、恋心が勝るほどの疼きを、もうその時すでに感じ始めておりました。
「これからずっと舞衣の側にいるよ。甘えていいのよ。夕べみたいな失敗したら大声で起こしてね」
 私がそう言うと、小さくでしたが頷いてくれました。

 私はその日の午前中、弥生さんのツンツルテンの部屋着をつまみながら、「着替えを取りにちょっと帰ってきます。多分、午前中オムツは大丈夫でしょうから」と舞衣ちゃんを頼み、ご主人の車を借りて自宅へ、その足で病院へ回りました。
 舞衣ちゃんの入院状況、怪我の程度、リハビリの有無、そのやり方など、詳しい情報を仕入れて急いで帰りました。
 
 脊椎といっても腰椎上部で、その異常な伸張が神経を刺激し、一時的に下半身麻痺を起こしているようでした。舞衣ちゃんの場合は、若い肉体の柔らかさもあって、投げ出されたときの本能的な防御反応が良かったらしいのです。傷は足のかすり傷と、車にあたったお尻の打撲程度で、腰椎などの骨折はなかったので手術する必要もなく、全く下半身麻痺が残ることはない、ということでした。
 現在の医療分野では、たとえ神経組織に完全損傷があったとしても、その再生現象や修復現象は確認されているので機能的回復もあり得る、などと聞くと、なおのこと安心できるのでした。ただ、脊椎と神経の異常な伸張は、不完全とはいえダメージを甘く見ることはできませんから、それなりの期間の安静は必要です。また、筋肉は短い期間に失われるために、リハビリが不可欠なことは言うまでもありませんでした。
 私はあまりの安堵感に、<なあんだ、心配したのがバカみたい>とまで思い、その後すぐ、飛び跳ねたいほどの喜びが全身を駆け巡りました。
 おそらく病院では、弥生さんもご主人も、現状復帰に問題がないことは聞かされていたに違いないのです。でも、医者の常として<絶対>という言葉は使いません。冷静さを欠いた親にとっては、<多分>とか<希望がある>では安心できないのは当然でした。現実に意識不明の舞衣ちゃんを見れば、それは、ただの観測にしか聞こえなかったのは充分理解できます。
 舞衣ちゃん本人はなおのこと、意識が回復した時点で自分の下肢に感覚がないことは、絶望以外の何ものもなかったことでしょう。誰の慰めの言葉も、当人にとっては、むしろ残酷な現実を意識させる言葉でしかなかったと思うのです。
 そうした今日までの経過を考えていた私は、私自身が安心できた以上、弥生さんにもご主人にも、まして舞衣ちゃんにも、病院で聞いた詳しい結果は報告しないことにしました。それは、同じような希望的観測を聞くに過ぎませんから、<きっと良くなりますからね>程度の言葉に止め、元通りの舞衣ちゃんが見られるまで、気長に付き合ってもらおうと決めたのです。

 帰ってみると、案の定舞衣ちゃんは弥生さんの食事は受け付けず、オムツの状態を見させることも拒否し、頑なに口を閉ざしたままだったそうです。
 食事はともかく、オムツなどは、たとえ母であれ、いえ、親であればなおのこと、そこに甘えが顔を出すと、他人である私のように冷静に対処できないようでした。何となく可愛い可愛いで、大過なく過ごしてきたこの親子関係が透けて見えるのでした。
 また、親の言葉にありがちな、つい他人と比べる言葉、<もっと酷い人がいるんだから>とか<頑張りなさい>とか<お願いだから言うことを聞いて>などという言葉は、却って患者の耐え難い気持ちを意識させるだけに過ぎません。相手の思考を封じ、正常なレールに戻す冷たさが出せない親子の情愛。つい弥生さんに対する同情の気持ちが出てしまいます。でも私は、ことさら冷静な表情を崩さずにいながら、次第に舞衣ちゃんの下の世話に喜びを感じるようになっていたのです。


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