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BESTOWERS
【ファンタジー 官能小説】

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I am Providence W-2

「……で、あそこに魔族が出てくるとは思わなかったけど、一体どういうことだと思う?」

 聖務の話題だ。エイダもへらへらと笑っていた顔を少し引き締めてその話題に臨む。頬杖は相変わらずだったが。

「そりゃあ、誰かが仕向けたんだろうさ。あたしらを邪魔に思ってる連中と言ったら、ラスプーチンしかいないんじゃないんか? 密偵の買収に失敗したから、殺しちゃった、とか?」

「だとすると、ラスプーチンってのは相当な愚か者ってことになるわね。密偵を殺しても何の解決にもならないし、教会の機嫌を損ねるだけよ。彼と話したけど、頭の悪そうな男じゃなかったわね」

 二人は互いに視線を交わす。そこにエステルが割ってはいった。

「奴も魔族で、典型的な教会嫌いだったんじゃない?」

 エステルの言葉に、ベラは少し考える。列島に残された魔族達は、教会を忌み嫌っている。教会が彼ら魔族を人扱いせず、邪悪な存在として蔑み、列島から絶滅させることを公言している状態では、それも仕方ないことだが。そして魔族の大半は、教会の教えに従って魔族を差別する列島の人間達全員を憎みきっているのだ。

「……でも、ラスプーチンが魔族で教会を憎んでいるなら、よくボルジア家に入り込めたわね。ボルジア家のお姫様に見事に取り入って、今や実質ボルジアを牛耳ろうとしている狡猾な魔族が、嫌いだからって理由だけで聖職者を殺そうとするとは思わないわね。第一、フードで顔を隠してはいたけど、彼の肌は白い列島系のものだったのよ? ……でも、変ね。聖職者、それも女三人を殺すだけなら、魔族が出てこなくて十分でしょ。夜盗を使う。それだけで十分なはずなのに、なぜ魔族が出てきたのかしら?」

 ベラの言葉は、二人に問いかけているようで、自らにも問いかけていた。言葉を出しながら、彼女自身で自らの推理を補完していっているのだ。そして、その言葉をエイダが継ぐ。

「……まるで、私たちがBESTOWERSの執行官だと予想してたみたいだな」

 二人と同じく考え込んでいたエステルが、はっと顔を上げた。

「そういえば、私が戦った魔族。私が執行官だとわかって、『やはり貴様らか』って言ってた……」

 ベラは深く頷き、エステルの言葉に続けた。

「……それで決まりね。彼らは、BESTOWERSの存在を知っていた。だからこそミドルード城下で聖務を執行されることを阻止するために、私たちに魔族を差し向けた、というところかしら」

 BESTOWERS機関は、その存在を公にしていない。また、魔族を根絶することを使命とする彼らは、徹底的な殲滅主義者だ。目撃者をそのままにして返すことなどはしない。そのため、彼らの存在を知っている人間達というのは、列島に数えるほどしかいないはずなのだ。

「で、その魔族達は一体何を企んでいるのさ。ラスプーチンとやらも、白肌の癖に魔族と繋がりがあるなんて、何者なんだよ」

 エイダの言う『白肌』とは、列島人の総称だ。魔族は大陸系の人間であるため、その肌は褐色だ。個人差こそあるが、列島の人間達の肌が色を抜いたように白いことと比較して、区別されている。エイダもベラも、エステルも、その肌は同じく白い。勿論、列島には大陸より渡ってきた人間がいて、彼らは魔族ではないが肌は褐色だ。褐色の肌を持っているからといって魔族というわけではないが、列島ではそれだけで差別の対象となる。

「さあ……もしかすると、アナスタシア殿下を傀儡にしようとしているラスプーチン自体が、魔族の傀儡なのかもしれないわね。彼らが何を企んでいるのか正確にはわからないけど、アナスタシア殿下に取り入ってるところを見れば、ボルジア家を乗っ取ろうとしているってのが一番わかりやすい推理かしら?」

 蝋燭の炎が弱々しく翳る。そろそろ蝋燭が尽きようとしているのだ。室内の影がその濃度を増す。そして、三人の空気も、緊迫したものに変わる。

「では、ボルジア家での暗殺事件も……」

 エステルが切り出した言葉を、今度はベラが継いだ。

「ほぼ間違いなく、彼らが絡んでいるでしょうね。ボルジア家の家督継承には、法皇庁は勿論、クーパ家と皇帝も首を突っ込むかもしれないから、彼らの思惑はそう簡単には実現できないだろうけど……それでも、これが大きな危機であることは間違いないわ」

 今まで、魔族が列島で構築できた組織は、魔族自体で構成される小さな共同体程度のものだった。それらは、辺境の小さな村だったり、場合によっては都市一つを牛耳ることはあったが、諸侯の領邦、つまりは国一つ全てを魔族がコントロールしたことは未だかつてないことだ。そして、今それが現実に起きようとしている。これは、列島の平和に考えるまでもなく悪影響を与えることだろう。

 ベッドに寝転がっていたエイダが、器用な身のこなしで立ち上がる。

「ハッ、面白くなってきたぜ」

 本来の闘争的な精神を燃やすエイダと対照的に、ベラは深い思案の海へと再び沈んでいる。そしてエステルは、その手にじっとりと手汗が浮かんでくるのを感じていた。彼女も、正確から言えばエイダに近い。だが、まだエイダほど経験豊富ではない彼女は、経験したことのないほど大きな事件に関わっていることを自覚して、その薄い胸の鼓動を早くするのだった。


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