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BESTOWERS
【ファンタジー 官能小説】

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I am Providence V-2

「魔族如きが『誇り』ですか。主を冒涜する汚れた身でありながら……恥を知りなさい」

 声は、エステルの発したものではない。男二人はそれを理解して、咄嗟に頭上を見上げた。

 木の枝に器用に立って男を見下ろしているのは、金髪の女だった。やや巻かれた髪を揺らしながら、ボディラインが強調されるような布を体に纏っている。胸部から腹部にかけては簡単な鎧を装着している。そして彼女の左腕には剣が握られていた。奇妙なことに、その剣には柄頭に鎖が繋がれていた。そして、鎖の先にあったものは、ベラの右腕によって投擲された後だったのだ。

「アリー……」

 ムラトの横、彼にとってはかけがえのない相棒であったアリーは、女の放った鎖が突き刺さっていた。いや、正確には鎖の先に繋がれた刃だ。鎖の先にはダガーが装着されており、それがアリーの胸を正確に貫いている。アリーは小さく呻いたあと、そのまま力を失って倒れる。

「ベラ!」

 魔族を一体屠った女、自分とは反対側で城を見張っているはずの同僚の姿を見て、エスエルは驚きの声を上げた。そんな彼女の方を見て、ベラは一度だけにこりと微笑んだ。いつも通りの笑顔であり、それゆえにエステルに強い恐怖を与える。

「貴様ァ!」

 ムラトは逆上し、偃月刀を片手にベラまで跳躍した。彼の身の丈よりも二倍ほどの高さがあるであろう枝に立つベラまで、簡単にムラトは迫った。ムラトの激情に任せた一撃が枝を両断する。そこにいたはずのベラは男の行動を余裕を持って回避していた。枝から飛び降りると、地面へと降り立つ。同じく地面に立ったムラトは、間を置くことなくベラへと迫った。

「全く、せっかちな男は嫌われますよ?」

 ベラの小言も、ムラトの耳には入っていない。今の彼はただ目の前の女を屠殺することだけを考えていた。しかし怒りのあまり直線的になる行動は、ベラには通用しない。偃月刀の斬撃ことごとく回避されていく。

「劣等種の分際で! 我らを、帝国貴族を舐めるなァァ!」

 ベラの頭部を叩き割らんとする一撃は、しかしベラが両腕で張る鎖によって受け止められる。偃月刀の一撃は細い鎖を断ち切ることすら出来なかったが、ムラトは構わず鎖を押し切り、ベラごと両断しようと力を込めた。

「劣等種? 私たちがですか? --勘違いしているようですね」

 それまで穏やかな表情を崩さなかったベラの顔に、一瞬凶悪な眼光が煌めいた。しかし、ムラトは激情に身を委ねており、その女の危険に気づかなかった。彼はますます偃月刀に力を込めて、遂にその刃はベラの目前まで迫っていた。

「死ね! ゴミ虫どもが……」

 彼がその言葉を言い終えることはできなかった。ベラは今までぴんと張り詰めていた鎖を突如緩めて体をずらすと、ムラトはバランスを崩したのだ。そしてベラはそのまま左腕を手繰って鎖を操り、手芸をするかの如き鮮やかさで鎖を男の首へと巻き付けていた。そして剣も手放し、両腕で男の首に絡みつく鎖をそれぞれ握る。一瞬の出来事だが、自らの首に鎖が巻かれたことを理解しそしてベラの顔を見たムラトは、口を開けて何かを言おうとした。だが、ベラはそれすら許さなかった。

「--勘違いしているようですが、劣等種は貴方方です」

 ベラが渾身の力で鎖を引くと、鎖はムラトの首を締め付ける。ムラトが手を伸ばしてその締め付けに抵抗する暇もなく、森には鈍く不快な音が響き渡った。すると、ムラトの顔から生気が失せ、口からだらりと涎が垂れた。ベラはそれを確認すると、ムラトだったものを鎖から解き放ち、地面に転がす。

「主に跪いて懺悔なさい。……勿論、貴方たちは何をしても救われることはありませんが」

 月光を浴びて微笑む金髪の女の姿は、味方であるエステルですら恐怖に襲われるほど美しかった。


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